世子様に見初められて~十年越しの恋慕


ソウォンの父親カン・ジェムンは、弘文館(ホンムングァン:王の諮問に応え、経書・史籍の管理、公文書の処理を担当)の大提学(テジェハク:長官職)であり、既に地位も名誉も手にしている。

それゆえ、揀擇に娘を出さなくとも十分なのだが……。

ジェムンは手塩にかけて育て上げた娘を誇りに思っており、王室に嫁がせるのも、ある意味娘の為だと思っているのだ。

だって、ソウォンは………。

「お嬢様っ、お待ち下さいっ!!そんな恰好で屋敷の外に出ては、人目についてしまいますっ!!」
「いいのよっ、それで!私が手に負えない程のお転婆だって噂が広まれば、お嫁になんて行かなくて済むものっ!」

ソウォンは意気揚々と屋敷の門をくぐり、人通りの多い大通りへと駆け出した。


両班の女性は、普段屋敷の外へは出ないのが良いとされている。
特に嫁入り前の娘は嫁ぐその日まで、人目を避けて過ごし、蝶よ華よと育てられる。

ソウォンも例外ではない。
幼い頃から数人の付き人がいて、教養や作法は勿論の事、他国の言語なども身につけて来たのである。

だが、そんな贅沢過ぎる暮らしに辟易しているソウォン。
三つ年上の兄セユンと仲がいいせいか、兄のように剣術の訓練をしたり、屋敷の外の人達と交流を持ったり……と。
常識では考えられない事ばかりしているのである。

そんなお転婆すぎる娘を心配し、どうにかして立派な娘にしたい……そう考えているジェムン。

そこへ揀擇が行われると知り、絶好の機会だと思ったのである。


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