世子様に見初められて~十年越しの恋慕


ソウォンは、妓生(キーセン:芸妓)見習いをする為、漢陽の中心部から少し外れた所にある妓房(キバン:妓生が暮らしている場所・店)へと向かった。

昨夜、自宅に出入りする妓生にこっそり頼み込んでいたのである。

「チョンアっ!早く早く~!!」
「お嬢様っ、そんな格好で走ってはなりませぬっ!」

ソウォンは裳(チマ:下衣)を両手で持ち上げ、はしたない格好で駆けている。
チョンアが髪を振り乱し、そんなソウォンを必死に追いかけていた。


妓房に辿り着くと、すぐさま昨夜の行首(ヘンス:一番偉い人、トップの者)妓生がソウォンの元へとやって来た。

「お嬢様」
「世話になるわね。私は何をすればいいの?」

挨拶もそこそこに、ソウォンは目を輝かせながら辺りを見回した。
そこへ、息を切らせたチョンアが到着。

「お嬢……様っ、帰りましょうっ!このような場所は、女性が来る場所ではございませんっ!!」
「あら、だからいいんじゃない。ふしだらな娘だって噂がすぐに広まるわよ~」

チョンアの心配をよそに、ソウォンは綺麗に化粧をした妓生に目を奪われていた。

「チョンア、見て?!あの人の紅、凄くきれいな色をしているわ!どこで手に入るのかしら?」

ソウォンは見るものすべてが新しいことに興味津々で、心の底から楽しんでいた。

「お嬢様、私共はこれから市場に買い物に参りますが、ご一緒されますか?それとも、奥の部屋で舞の稽古でもご覧になられますか?」
「市場に行きたいわ!滅多な事がない限り、市場になんて行けないもの」
「では、すぐ支度致しますので、少しの間お待ち下さいませ」
「えぇ、分かったわ」
「お嬢様っ!!」


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