世子様に見初められて~十年越しの恋慕
ヘスがヒョクに手当て出来る場所が近くにあるか探すように指示を出している間に、ソウォンは服に付いた砂埃を手で払う。
そして、再び足下に残された粉状のものへと指先を伸ばす。
「どうかされましたか?」
「ユル、これを見て?」
ソウォンはユルに確認させる。
「これは………回青(青色の顔料の一種)では……?」
「…………ん」
「ですが、なぜここに?」
ユルの言葉にソウォンは首を傾げると。
「今、何と申した」
「………へ?」
「今、……………回青と言わなかったか?」
「………」
ソウォンとユルの会話を耳にしたヘスは、厳しい顔つきで粉状のそれを確認する。
高麗時代から白磁と青磁が焼かれるようになり、特に白磁は“王の器”と称され、京畿道(キョンギド:現在のソウル近郊)広州一帯で作られている。
高麗青磁に白土で装飾を施した粉青(ふんせい:日本では三島という)は、朝鮮よりも倭国(日本)に好まれていて、陶工が倭国に連れていかれているという噂もあるほど、高麗茶碗は高値で取引されている。
さらに、白磁に回青で描く青花(せいか:染付)は最高級品として王室に好まれ、朝鮮では入手困難な回青を清国(中国)から輸入している。
王室の陶磁器に使う貴重な顔料な為、回青は国で厳重に管理されている筈。
それが、このような山間の街中にあるとは……。
ソウォンが違和感を感じたように、ヘスもまた不審の念を抱かずにはいれらなかったのである。