世子様に見初められて~十年越しの恋慕
チョンアは屋敷から持参した長衣(チャンオッ:外出の際に羽織る服)をソウォンに羽織らせようと必死。
だが、ソウォンはすばしっこく、チョンアの手をするりと避けて……そんな事さえ楽しんでいるかのように。
すると、支度の整った行首妓生と数名の妓生がソウォン達のもとに現れた。
「お待たせ致しました」
より華やかに着飾った妓生達。
色鮮やかなチョゴリとチマを身に纏い、彼女達が現れただけで何処からともなくふわっと花の香りが漂ってくる。
そして、幼いソウォンでもうっとりするくらい艶気がある。
ゆっくりと上品に会釈した彼女達は右腕に長衣を抱え、左手でチマをそっとつまみ、優雅に歩く。
ソウォンはそんな彼女達の真似をして、すっかり妓生にでもなったかのように……。
「お嬢様……」
チョンアは半ば諦めたかのように溜息を吐きながら、ソウォン達の後を追った。
市場に着くと、すぐに視線が注がれる。
すれ違う男性達の熱い視線は、ソウォンのすぐ前を歩く妓生達に釘付けなのだ。
ソウォンの屋敷に出入りする行首妓生シファは、漢陽で一番美しいと言われる妓生だ。
そんな妓生の顔を見たさに、大金を積んで妓房に通う男も多い。
だが、一見お断りを貫くシファ。
そんな彼女に相手して貰うには、家が何軒も買えるほどの大金を注ぎ込まねば会う事さえ出来ない。
それゆえ、市場内を優雅に歩く姿を目にする事が出来るのは、奇跡に近かった。
あっという間に男性達が群がる中、妓生達は雑貨屋の前で足を止めた。