世子様に見初められて~十年越しの恋慕


どんな言い訳も通用しない。
例え、自分の身が危険に晒されていたとしても、民は世子の身を守る事に誇りを持っている。

時間は巻き戻すことが出来ない。
何故、別の方法が思いつかなかったのか、ソウォンは後悔の念に駆られていた。

きつく瞼を閉じ、手討ちになる覚悟をしていると。
ふわっと肩に何かが掛けられた。

「すまぬ、そなたにこのような事までさせて……。お陰で難を逃れる事が出来た。礼を言う」

怒気を含んだ声音ではなく、心から安堵した優しいものだった。
ヘスに肩を支えられ、上体が起こされる。

ソウォンに掛けられたのは、脱ぎ捨てたチョゴリ。
肌を露わにせぬ為、ヘスは包み込むようにそっと抱きしめた。

チョゴリの布地越しに伝わる体温。
どちらともなく早鐘を打つ心の臓。

屋外は騒然としているというのに、二人の周りだけは時間が止まっているかのようで。
ソウォンは息をする事さえ出来ず、硬直していた。

すると、ソウォンの体を布団の上にゆっくりと横たわらせた。
自然と絡み合う視線。
艶気を帯びたヘスの視線に、一瞬で全身が上気する。

額から目元、目元から頬へと、そっと触れる指先。
触れられたそこは、火が灯ったかのように熱を帯びる。
少しひんやりとしたヘスの指先は、ソウォンのぷっくりと膨れた小さな唇へと到達した。

白檀の香りを纏う肌。
ほど良く筋肉が付いていて、日々鍛錬していることが容易に伺える。

初めて知る男性の素肌に、ソウォンの瞳は完全に捕らわれていた。

「清純そうに見えて、そなたは意外と大胆なんだな」
「っ……」
「もしや、夫のある身か?」
「ッ?!…………ままままっ、まさか」
「だが、知っているのだろ?」
「な、何を……ですか?」


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