世子様に見初められて~十年越しの恋慕
ぐっと顔を近づけるヘス。
今にも鼻先が触れてしまいそうな距離。
温かい吐息が微かに頬にかかる。
口角を僅かに上げたヘスは、ソウォンの顔を挟み込むように両手をついた。
蝋燭の灯りがヘスの顔を艶めかしく照らす。
目元を細めて、何か言いたそうなそんな表情を浮かべた。
ヘスが言いたい事が何となく分かるソウォン。
けれど、それに関して詳しい事は何一つ知らない。
諸外国の書物を読み漁る中で、何度かそれらしい挿絵を目にした事があるだけ。
だから、何をどうするなどという事は知る由もない。
だが、切羽詰まった状況とは言え、ソウォンが大胆な行動を取ったのは事実。
妻のある身の世子にしてみれば、それが何を示しているのかという事くらい理解出来る。
ソウォンの行動が誤解を招いたようで、絶体絶命の状況だ。
ヘスは更に顔を近づけ、首をほんの少し傾けた。
世子のお手付きになるという事は、女性にとって名誉と言っても過言でない。
しかもその世子が、幼い頃に胸をときめかせた相手であるのだから、嫌がる理由は何処にもない。
お互いの唇が触れてしまいそうな距離に耐え切れず、ソウォンはぎゅっと目を閉じた。
けれど、一向に何も起こらない。
唇どころか、鼻先も触れることなく……。
さっきまで吐息さえ感じられていたのに、今は気配すら感じない。
どうなっているのか理解できず、意を決して瞼を押し上げた。
すると、横たわるソウォンのすぐ横で胡坐を掻き、楽しそうにじっと見つめているヘス。
その視線がチョゴリから覗く肌に向けられていると知り、ソウォンは思わず両手でチョゴリの襟元を手繰り寄せた。