世子様に見初められて~十年越しの恋慕


 * * * 

「ヒョク、この地域の採掘場は幾つあるのだ?」
「四つでございます」
「四つか……」
「今、そのうちの二つを調べさせていますので」

ヒョクは部下を使い、採掘場周辺の状況を調べさせていた。

洪水の原因を調査しに来ていたが、思わぬ収穫を得たヘス。
洪水との関連は無いかもしれないが、見過ごす訳にも行かない。

「大量の回青を流通させるとなると、倭国以外に考えられません。さすれば、何と引き換えるのでしょうか?」
「恐らく、銀であろうな」
「………銀」

朝鮮には銀脈が殆どなく、外貨に頼るしかない。
倭国には豊富な銀脈があり、朝鮮の紅参(高麗人参)や絹地と取引されているという。

ヘスはソウォンが堂から持ち帰った一握りの回青を見つめていた。

「ヒョクはこれが回青だと、一目で分かるか?」
「…………いいえ」
「恥ずかしい話だが、私も分からなかった。そもそも青い色を出すものなのに、銀白色の粉だとは……」

ヘスは布地上の粉の山から一つまみ手にした。
指先に付く粉はほんの少しざらついて、しっとりと指先に纏わり付く。
ソウォンが言ってたように、未乾燥状態のもののようだ。
ヘスが溜息まじりに包みを閉じると。

「世子様っ、世子様!!」
「何事だ」
「見て参ります」

上党山城にいるヘスの元にヒョクの部下が血相を変えてやって来た。
部下から報告を受けたヒョクはヘスに事情を説明する。

「採掘場の近くに大きな甕を積んだ荷車がある小屋を見つけたそうです」
「何っ?!」
「それと………」

ヒョクは言葉を濁し、視線を落とした。


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