毒舌王子に囚われました


テーブルには、ビールの空き缶はない。飲み終わったらすぐに秋瀬さんが片付けてしまうから。

おかげでおつまみ、今飲んでいるお酒くらいしかものがない。よく働く店員さんですかあなた、とツッコミそうになる。

そのせいで余計に、自分がどのくらい飲んだかわからなくなってくるわけで。

「秋瀬さんは、お酒、どんなのが好きなんですか?」

「……そうだなぁ。日本酒かな」

お正月に実家で飲んだことがあるけれど、日本酒ってすごく辛いし、キツいし、絶対飲める気がしない。

「大人ですね」

「稚沙都は?」

「わたしは……カルアミルクとか。カシスオレンジとか」

「あんなジュースみたいなのが好きなのか。ガキみたいだな」

言うと思いました。でも、子供はお酒は飲めませんからね秋瀬さん。あれだってれっきとしたお酒です。

「いいじゃないですか、好きなのは、好きなんですから」

とこたえつつ、頭がまわっている。

「次、最後にしようか」そういって、秋瀬さんが立ち上がる。

「どこ行くんでしゅか?」もはや、ろれつが回らない。

「待ってろ。ほら、これ飲んどけ。死ぬなよ」と、水を差しだしてくれた。

優しい。なぜか秋瀬さんが優しい。

戻ってきた秋瀬さんは、なにかをわたしに差し出した。



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