毒舌王子に囚われました


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「稚沙都さんのこと、一生、大切にします」


わたしの両親に挨拶しに、実家まで来てくれた一縷さんは、そういった。

まっすぐな目で。

わたしのこと、幸せにしたい、守りますと、わたしの両親に誓ってくれた。


嬉しくて、思わず隣で泣きそうになった。

その日の一縷さんは、いつもの一縷さんじゃ……なかった。


というのも。

うちは、どこにでもある一軒家なのだが。築30年はたとうとしている。

うちの中といえば、まぁ、そんなに美しいものでもなく。

掃除が徹底的に行き届いているわけでも(それでも一縷さんがくるということで、明らかに普段よりは片付けてあったが)、除菌された空間というわけでもない。

生活感が溢れ、なんなら押し入れを開けたら母が急いでしまい込んだであろう何かが雪崩を起こしそうなレベルにごちゃごちゃしている。

物がきっちりと整理整頓され、モデルルームみたいな一縷さんの部屋とは全然違う。

なのに、一縷さんが……

あの、潔癖男の、一縷さんが。


「いただきます」


出されたお茶を飲み。

振る舞われた料理まで、食べた。


うわー……一縷さん、ごめんなさい。

自分の作ったもの以外、極力食べたくないですよね。そこの座布団、ほんとは、座りたくないですよね……とまぁ、そんな風に、わたしは秋瀬さんの隣で考えていた。

一縷さんは、無理して笑ってくれている。

一縷さんは、無理して母の料理を口にしている……と。


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