毒舌王子に囚われました


——秋瀬 稚沙都

それが、今のわたしの名だ。


好きな人の名字になれるっていいよね、なんて憧れたこともあったが、本当にわたしが誰かと結婚してその人の姓を名乗るだなんて、入社したての頃は考えてもみなかった。

ましてや、その相手が一縷さんだなんて……誰が思うものか。


「秋瀬さん」

そう呼ばれるたびに、ニヤけてしまう。

左手の薬指には、エンゲージリングがキラリと光る。


同居を始めて1年もたたないうちに、わたし達は結婚した。

一縷さんから、わたしにプロポーズしてくれた。


「理由?……そんなの、ひとつしかない。稚沙都と家族になりたいから」


なんともシンプルな理由は、それ以上説明がなくても納得できる程にわたしの心に響いた。

一縷さんが、わたしと、家族になりたいと思ってくれた。

それだけで、いい。それが、一番嬉しい。


一縷さんがわたしのどこをそんなに気に入ってくれているかいまいちピンとこないが、凄く大切にしてもらえていると自惚れてしまうくらい、毎日が幸せで。

相変わらず口が悪いときもあるし、クールとはとてもいえない俺様で毒舌で潔癖な人だけれど、なんだかんだ、一縷さんはわたしのことを一番に想ってくれていると心から安心させてくれた。

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