毒舌王子に囚われました


「やめ、て」

「いいだろう」手が離され自由になる。

「なにするんですかっ……」

「ほんと、子供みたいだな」

そういって、今度は頬をなでてきた。

優しく。壊れやすいものに触れるかのように……。

睫毛、長いんですね。


「メイク」

「……め、メイク?」

「昨日の夜、ほとんどしてなかったよな。いつも、ああなのか?」

「そうですけど……それが?」


たとえばわたしが受付嬢なら、化粧にもっと気を使うかもしれない。

だが、オフィスの隅のデスクでひたすらパソコンと向きあっているだけの人間だ。めかしこむ必要なんてない。


「女子力皆無」

「……!! い、いいでしょ別に」

「あぁ。それがいい」

「……はい?」

「ペットに余計な不純物が付着していては、気分が悪い」


……帰ろう。今すぐ、帰ろう。

秋瀬さんのいっていることの意味が、わたしにはわからない。

わたしは、悪魔の巣に足を踏み入れてしまったに違いない。


「寝かせてもらい、お風呂や朝ごはんまでいただいて……」

本当に、お世話になりました。

と、いいたかったのに。


「決めた」

秋瀬さんの言葉で、わたしの言葉が遮られた。


ん?

決めたって、なにをですか秋瀬さん。


「今日1日、俺と過ごせ」

「は?」

「さんざん世話になっておいて、まさか嫌だとは言わないよな?」


ええっと……、今日、

「1日……ですか?」

「足りないか?」


ぎゃ、逆です……!! 長すぎませんか!?


「みっちり躾けてやるよ」

「しっ、しつけ?」

「いったろ。褒美をやるって」


秋瀬さん、それ……

どんなご褒美ですかっ……!?

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