毒舌王子に囚われました
そこ、面白がらなくていいです。
冷静になると、こんなに近くからノーブラノーパン状態で覗き込んでいるのは照れくさい。
いや、隣に座っているのも恥ずかしい。なにをやっているのだわたしは……。
秋瀬さんから、少し離れる。
しかしだ。
他の人だったら拒絶反応を示すであろう――とびきり狭い秋瀬さんのパーソナルスペースに、今わたしは平然といられるわけで。
それが、素直に嬉しかった。
もう1人だけいるんだよね。触れられても平気な人。
その人は……どんな人なのかな。悔しくて、わたしから詳しいことは聞けそうにないけれど。
「これにしよう」
なにを見るか決定したらしい。
「その前に、下着を……」「断る」
「……っ、」
即答ですか。
立ち上がると、部屋のカーテンを閉める秋瀬さん。
午前中だということを忘れてしまうくらい、途端に部屋の中が暗くなる。遮光カーテンなのだろう。
「なんて作品ですか?」
「羊たちの沈黙」
「……あんまり怖くなさそうですね?」
眠くなりそうなタイトルだ。
「それはどうかな」
羊が、恐ろしい怪物に化けるとか?
「俺は、あまり幽霊やゾンビものでは楽しめない。B級ホラーはものによっちゃ好きだが……それは怖くもなんともない」
「……?」
「だが、人の深層心理や心の闇に迫るような類のものは面白いなと思う」
ゴクリとつばを飲み込む。
秋瀬さんの言葉の意味はそこまで理解できないが、薄暗くなった部屋で心の闇なんて言われると、ちょっと怖くなる。