毒舌王子に囚われました
ん? こっち見てる……?
わたしに気づいてくれたのかな……って、近付いてくるではないですか!
他の人と逆方向に、一人わたしに向かって歩いてくる秋瀬さん。
まさか、声かけてもらえるの?
またドキドキし始めている、わたしの心臓。
「佐久間」
「はい」
……違った。
秋瀬さんと佐久間くんが、仕事の話を始めた。
「わたし、戻るね」
小声で佐久間くんに伝える。
「おう、また連絡する」
と佐久間くんに返事された、そのとき。
秋瀬さんがこっちをギロリと見る。
……え、なに?
なんか、めっちゃ睨んでいませんか、わたしのこと。
叱られる前に、さっさと戻ろう。
お辞儀をし、逃げるように秋瀬さんの元を去る。
……なにも、睨むことないのに。
まるで別人みたいだった。氷のように冷たい視線を向けられ、へこまずにはいられない。
ひょっとしたら、週末のように夢みたいな時間を過ごすことは、この先もうないのかも。
あんなに近くにいて、声すらかけあえなかった。
……そんなの、先輩と後輩以下の関係じゃん。
秋瀬さんにとってわたしは、あの場限りの女だったのかもしれない。
秋瀬さんのくれた温もりは、ずっとずっと、わたしに残ったままなのに――。