毒舌王子に囚われました
秋瀬さんの家で過ごし始め、2週間が過ぎた。
最初でこそ、口を酸っぱくして
「そこに物を置くな」
「あれに触るな」
と文句を言われたが、
「……あとで片付けろよ」
と、ほんのちょっとだけ、その程度は下がったような気がする今日この頃。
一人暮らしを始めたばかりのマンションは、月末に出て行く予定にしている。
礼金だってバカにならなかったし、荷物を実家に送り返したら何事かと驚かれる。
だいたい、いつまで秋瀬さんのところにいるかもわからないし、そうなると逃げ場は確保しておきたいものだが、
「お前の帰る場所はどこだ?」
なんて問い詰められたら……
「秋瀬さんの、うちです」と答えるしかなく。
「なら、いらないよな。別宅なんて」
と強引に退居させられることに。
……いや、させられるなんて言い方は言い訳がましいか。
全部、わたしの意志だ。
全ては、秋瀬さんのそばにいられたらなという想いからその行動に至ったわけでして。
誰にも言えない。……言えるわけない。
会社の連中には、内緒にしている。
あれから部長はなにもなかったかのようにケロッとしていていつも通りわたしに接してくるし(カメレオン牧田と呼ぼう……)。
佐久間くんからは改めて誘われることもなく、会社ではいつも通り過ごしているのだが……。