青野君の犬になりたい
「葉山さん」
待っていた声に後ろから呼び止められて、私は嬉しさを隠して振り返る。
「なに?」
「忘れ物。置いていかないでよ、これ」
「あ……」
私は肩透かしを食らったような気分で、差し出された栗饅頭を受け取る。
「それから、俺のことも」
見上げると、夜空をバックに青野君の屈託のない笑顔が輝いて見えた。
「行こう」と言って、青野君は私の手を引いて歩き出す。
左手に栗饅頭、右手は青野君とつながっている。
どこに行くの?とは聞かなかった。
どこでもよかったし、青野君と手をつないで夜道を歩き続けるのもいいなあ、と思った。

けど、20分以上歩き続けたところで「どこ行くの?」と尋ねてしまった。
青野君は立ち止まって「おかしいな、前に店の前を通りがかって行きたい店があったんだけど……確かこっちのはずだんだけどな」と、きょろきょろあたりを見回した。
「お店の名前は?調べてみる」
私は握った手をほどき、ずっと握りしめて形が崩れかけた栗饅頭をバッグにしまってかわりにスマホを取りだした。
「確か、波を2つ書いて『なみなみ』だと思う」
検索ボックスに『なみなみ』と入力するとすぐに店が出てきた。
私は画面を青野君に見せる。「これ?」
「そう」といってマップを確認すると、「方角が、全然違うじゃないか」と、誰かのせいのように言う。
「場所、知らないで歩いていたの?」
「グーグルマップで調べようと思ったところで葉山さんが帰っちゃったから、慌てて出てきちゃったんだよ」
「つまり――」
「そう、葉山さんのせい」
行こう、といってまた青野君は私の手をとった。

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