青野君の犬になりたい
その日、私は手をつないで青野君の部屋に行き、そのまま泊まった。
愛犬「ナナ」として。
「彼女」ではなく「愛犬」としてなので、「おやすみ」と頭をなでられて、青野君の傍らで寝ただけだ。
私はそのうち彼の腕が伸びてくるのではないかと、青野君の腕の中でどきどきしながら硬直していたが、間もなく青野君の静かな寝息が聞こえ、結局そんなことにはならなかった。
気づいたら朝になっていて、コーヒーの香ばしい香りが漂っていた。
「おはよう、ナナ」
ナナ、と呼ばれて私はまだ犬なのだと悟る。
青野君はもうすっかり朝の準備が整っている。
ダッシュボードの上に置かれた時計に目をやると、もうすぐ9時半になるところだった。
「え、こんな時間!なんで起こしてくれなかったの?」
慌てて起きあがる私に「今日は土曜日だよ」と言って、青野君は白いマグカップを口に運んだ。
「そっか、今日はお休みか」
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