青野君の犬になりたい
それにしても青野君は、会社の同僚に告白されたのに、ひとかけらの動揺も驚きも表さない。
いつもの世間話と同じライン上にいる。
こんな浅い感じで振られていいのだろうか。
浅すぎて現実味も薄い。
なのでそれをバネに「必要性なんかいらないじゃない。とりあえず付き合おうよ」と、強気で押す。
青野君は「お、酔っぱらっちゃいましたか?」とおどけた。
「酔って言ってるわけじゃないわ」
「それなら―――パンチが足りなくてモテない僕なら、喜んで付き合うって言うと思った?」
「え?」
緩んでいた気持ちがひきつった。
「そ、そんなこと思って」
「たでしょ?」

そういうことではなかった。
なかったけど、青野くんなら付き合うって言ってくれそうだと思ったのは本当だ。
それはいつも青野君が親切だったし、身近に感じていたから期待していたわけで、
でもそれも独りよがりな言い訳だと思ったら言葉を返せず私はゆっくり1回瞬きし、
そんな困った私を数秒間見つめた青野君はフッとまた笑顔を浮かべた。
「葉山さんて正直だね」
「だから違うって。そんいうことじゃないの!」
「じゃあ本当に僕のこと、好きになっちゃいましたか」
青野君の瞳がシニカルに光る。
私は吸い込まれるように「うん」と答えた。
「本気?」
私の真意を量るように、青野君は枝豆のさやに歯を当てながら私を見つめた。
「本気、です」
なぜか丁寧語になる。
「いいですよ」
ああ、そう答えてくれると思っていた。
ようやく想定内の展開になった、と思ったのだけど、そうはいかなかった。
「じゃあ4番目の彼女っていうことで」
「え?」
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