冷徹ドクター 秘密の独占愛


意味もなくどこかがズキっとしていた。

見てはいけないものを見てしまったような気分になって、即座に患者さんに向き直る。


「……こんな感じですか?」

「あ、はい、そうですね。すごく上手です。で、前歯の裏は歯ブラシをこんな感じに立ててもらって、一本ずつ磨いていきます」


自分に向かって、何で何の関係もないのに、こんな風に動揺しているんだと問い詰める。

患者さんを目の前にしながら、背中の向こうで談笑するその会話の行方が気になって仕方ない。

今は仕事中!と余計な邪念をシャットアウトして指導に集中する。


「こんな感じで、どの場所でも歯と歯茎の境目に当てて磨くようにしてみてください」

「はい、わかりました」

「何かご質問ありますか?」

「……」

「……大丈夫ですかね? では、少々お待ちくだ」

「あの……」

「はい」

「……浅木さんの……好きな花は、何ですか」

「えっ、花……ですか? えと……ガーベラ、ですかね。色んな色があって可愛いですし」

「そうですか……ありがとうございます」

「いえいえ。あ、じゃあ少しお待ちください」


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