冷徹ドクター 秘密の独占愛


更衣室のドアの内側からそっと顔を覗かせると、カチャっと控え室のドアが開く。

そこに見えた上背のある姿に、鼓動が弾かれたように跳ね上がった。


「律己、先生……」


診療をしない今日も、律己先生は白衣を着て診療室に出てきていた。

患者さんは診れないけれど、医局にこもってカルテのチェックやデスクで行える仕事をしているようだった。


普段は律己先生が足を踏み込まない従業員控え室。

この部屋に律己先生が入ってくることが、どこか不思議な光景に見えてしまう。

後ろ手に入ったドアを閉めると、律己先生は黙ったまま私の顔をじっと見つめてくる。

控え室に出ていくと、私が歩み寄るよりも先に律己先生の手が私を捕まえた。


「律己先生……」


名前を口にした私を、律己先生は無言のまましっかりと腕に抱く。

しばらく安心させるように私を抱き締めると、隙間なく触れ合っていた体がそっと解放された。


「律己先生、手……」


朝、スタッフの皆と共にいつも通りの朝の挨拶をした時、処置された右手を遠巻きに目にした。

誰も私のせいで怪我を負ったなんて知らないその右手に、心臓が握り潰されたような苦しさに襲われた。

他の先生や助手の皆がその怪我について口にするのを耳にするたび、罪悪感で消えてなくなりたい思いでいっぱいにもなった。

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