冷徹ドクター 秘密の独占愛
「あっ、すみません……」
何の感情も持たないような冷めきった目で見下ろされ、不必要に謝っていた。
また例のごとく「すみません」と口にしてしまったけど、この目に見られて平然としていられる人は果たしているのだろうか。
少なくとも、私にはやっぱり無理だ。
「あの……ここには、どうして――」
意を決して出した声は、差し出された副院長の手にある“もの”によって打ち消される。
目にした瞬間、ハッと息を呑んでいた。
突き付けるように出されたそれは、忘れかけていた記憶を呼び覚ます。
「どうして……これを……」
臨床実習が始まる前、仲良しグループ四人で買いに行った、お揃いのボールペン。
それぞれ行く先はバラバラだけど、必ず卒試を全員で受けられるようにお互い頑張ろう。
そんな約束をして持ったボールペン。
ノック部分が歯のキャラクターになっているボールペンは、実習中の私の相棒同然だった。
実習が辛くても、みんなも頑張っているとこれを持って実習に挑んだ。
だけど、実習も終盤になった頃、手元から忽然と姿を消してしまった。
いくら探しても見付からず、やがて実習は終わり、卒試と国試の勉強に勤しむ日々に追われていった。