溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~



 ふたりの様子をニコニコしながら眺めていた田辺さんが面妖なことを言う。

「なんかいいですねぇ。男同士の友情っていうか、いちゃいちゃしているの。私も男だったら仲間入りしたいです」
「え……」

 野口くんが顔をひきつらせながら田辺さんを凝視する。新條は無表情にチラリと見ただけでパソコンのモニタに目を移した。
 田辺さんってそういうのに萌える、いわゆる腐女子なんだろうか。
 新條のゲイ疑惑については、嫌がらせの一環で先輩女子から聞かされたらしいが、彼女の新條への態度が変わることはなかった。結構メンタル強い。

 一瞬固まっていた野口くんが、腰を浮かせながら前の席にいる田辺さんに身を乗り出して思い切り否定する。

「いや、いちゃいちゃはしてないから! 一方的に絡まれてただけ!」
「そうなんですか? 楽しそうに見えたんですけど」
「ぜっったい、楽しんでないから!」

 拳を握って力説する野口くんに、隣から新條が寂しそうにつぶやいた。

「北斗、そんな力強く否定されたらオレが傷つく」
「いや、あの、別に新條さんが嫌いだとか迷惑だとかいうわけじゃなくて……。いや、迷惑には迷惑なんですけど、そうじゃなくて、あの……」

 しどろもどろに言い訳をする野口くんがおかしくて、花梨はクスリと笑う。

「のぐりん、墓穴掘るだけだから、黙って仕事しようか」
「はい……」

 野口くんは力なく肩を落として席に着いた。田辺さんがモニタ越しにこっそりエールを送る。

「北斗さん、ドンマイ」
「はは……」

 野口くんが乾いた笑いを漏らした。


 田辺さんは最近、新條にならってか、新條以外のメンバーを名前で呼ぶようになった。新條には断られたのか、あるいは冷たい態度に一線を引いているのかは不明だが。

 岡山支店のトラブルが解決し、他の支店も滞りなく給与支給業務をこなしているようで、一件の問い合わせもないまま一日が終了した。



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