溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
十九時を回って十分が経過し、今日は何事もないことに安堵しながら、花梨はマシンルームの端末を終了させる。そこへ扉がノックされて新條が入ってきた。
田辺さんと病み上がりの野口くんは定時で退社している。保守チームで残っているのは、相変わらず新條と花梨だけだった。
新條は戸口に立ったまま花梨に言う。
「もう帰るだろ?」
「うん」
「じゃあ、食事に付き合って」
「いいよ」
いつになく強引な物言いが少し気になるが、渡りに船なので了承する。昨日のことを問い質すチャンスだ。
花梨はさっさと帰り支度を整えて、新條と共に会社を出た。
てっきり近所の居酒屋にでも行くのかと思ったら、新條はビルを出てすぐにやってきたタクシーを捕まえて乗り込む。
後からついて乗り込みながら花梨は尋ねた。
「どこまで行くの?」
新條は花梨ではなく運転手に告げた。
「フィルマモンホテルまで」
おしゃれなブティックや百貨店などが立ち並ぶ街一番の繁華街にそびえ立つ超がつく高級ホテル。まさか仕事帰りにそんなところで食事などありえないから、その近所ということだろう。
それにしても、いつもの居酒屋や気さくなレストランよりも、あのあたりの店はおしゃれな感じなのだが。
やがてタクシーはホテルに到着し、入り口の真ん前に停まった。
「ホテルの近く」って言わないから、こうなるよなぁとか、花梨は内心苦笑する。ところがタクシーを降りた新條は、ホテルの入り口に向かって歩いていった。花梨はあわてて新條の腕を掴む。
「ちょっと待って。ここに行くの?」
「そうだよ」
「なんで? 私、こんな高級そうなとこで食事できるほどお金持ってないよ」
現金はなくてもカードは使えるんだろうけど、それ以前にとんでもなく場違いな気がしてしょうがない。
元々貴公子然とした新條は、まったく気後れした様子もなくにっこり笑う。
「大丈夫。オレのおごりだから」
「大丈夫じゃないよ。なんでおごりなの?」
「昨日、花梨が頑張ったご褒美」
「いや、頑張ったもなにも、仕事だし。それにおごってくれるならもっとリーズナブルなとこでもいいでしょ?」
なんとかして肩の凝る食事を回避しようと食い下がる花梨に、新條は真顔で告げた。
「そういうとこじゃ落ち着いて話ができないから。聞いてほしいことがあるんだ」
そう言われては引き下がらざるを得ない。花梨としても話を聞きたいと思っていた。新條の方から話してくれるならその方がいい。
「……わかった」
花梨は覚悟を決めて新條の後に従った。