溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~



 新條は諦めたようにひとつ息をついて説明する。

「オレもどこかで聞きかじった話だから真偽のほどは確かじゃないんだけど、観音様は男でお地蔵様は女らしいよ」
「えぇーっ!? お地蔵様っておじいさんかと思ってた」
「見た目は確かにね。でも子供の供養とかはお地蔵様が多いからそうなのかなとも思う。まぁ、仏教的には仏様って性別はないみたいだし、仏像のモデルはお釈迦様だっていうから、見た目が男なのも納得するけどね」
「へぇぇ」
「納得して気が済んだら一緒に寝よう」

 そう言って新條は布団をめくって花梨を抱き抱えたまま潜り込む。嬉しそうに笑いながら近づいてきた顔が鼻先にチュッと口づけた。

「きゃっ。何もしないんじゃなかったの?」

 驚いてちょっとドキドキしたのが悔しくて、花梨は抗議の声を上げる。けれど新條はそれすらも嬉しそうに、今度は額に口づけた。

「キスくらいは許してよ」
「もう……」

 ため息をつきながら、まぁそれくらいはいいかと、すでに流されそうになっている。
 新條はホッとしたように淡く微笑んでゆっくりと顔を近づけてきた。花梨が目を閉じたと同時に唇が重なる。

 はじめは確かめるようについばむようなキスが、次第に熱を帯びて深く甘くなっていった。甘い熱に翻弄されて、花梨の思考も頑固な理性も徐々に奪われていく。

 もう流されてもいいかと思い始めた。なにより体に点った火がそれを望んでいる。

 花梨が両手を伸ばして新條を抱きしめ返したとき、ふいに彼が唇を離した。目を開くと目の前で淡く微笑んでいる。

「その顔、そそられるけど今日はここまで。けじめだろ?」
「……うん」

 自分で言ったことなのに、本当はもうけじめなんてどうでもよくなっていた。もしも今夜で最後なら、たとえ忘れられなくなっても思い出にしたいとか思っていたのに。

 泣きそうになっていると、新條は子供をなだめるように花梨を抱き寄せて頭をなでる。

「そんな顔しないで。明日、絶対うまく解決してみせるから。今夜を最後にはしない」
「うん」

 暖かい腕に抱かれて、静かな鼓動を聞きながら、花梨はゆっくりと眠りについた。


< 68 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop