溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~


 デートって疲れる。好きで好きでたまらない相手だと疲れないんだろうか。
 そもそも花梨は今までそんな相手と付き合ったことはなかった。出かけるのが億劫な花梨は、一旦自宅の敷居をまたぐと、わざわざ彼の家に行くことさえ面倒だった。一緒に出かけるのを渋っているうちに疎遠になって自然消滅という彼氏しかいたことがない。

 こんな疲労な日々が続くのは仕事に支障があるので、新條にもちゃんと話しておくべきだろう。それで呆れて恋人契約を解消してくれれば言うことはないのだが。

 そんなことをぼんやり考えながら、メールをチェックする。突然、前の席からモニタの上をポンポンと叩かれた。顔を上げると、同じチームの野口くんが席を立って怪訝な表情で見つめている。

「宮村さん、大丈夫ですか? 桧山部長が集まれって言ってますよ」
「あ、ごめん。ぼーっとしてた」

 花梨はあわてて席を立ち、画面にスクリーンロックをかける。ログオン画面が表示されたのを見届けて桧山部長の席へ向かった。

 部長席の前には野口くんの他に新條も集まっていた。花梨も含めてこの三名が保守チームのメンバー。そして部長の隣には見慣れぬ若い女性が立っていた。部長は彼女を手で示し、メンバーに紹介する。

「新入社員の田辺あんず(たなべあんず)さんです。教育期間を終えて、今日から第二システム事業部に配属になりました。田辺さんにはヘンナメディカル人事給与システム保守チームに入ってもらいます」

 部長の紹介を受けて、彼女が笑顔でぺこりと頭を下げた。

「田辺です。早く仕事を覚えられるように頑張りますので、よろしくご指導お願いします」

 そう言って彼女はもう一度頭を下げた。緩くウェーブのかかった柔らかそうな栗色の髪が肩の上でふわりと揺れる。剛毛な花梨はちょっとうらやましい。
 部長は続いてメンバーをそれぞれ紹介する。

「チームリーダーは新條貴陽くん。そして問い合わせ対応の宮村花梨さん。それからソフトメンテナンス対応の野口北斗(のぐちほくと)くん。田辺さんは当面宮村さんと野口くんのサポートをしながら、保守の仕事全体を学んでもらいます。みなさんよろしく」
「はい」

 素直に返事をしたものの、みんな内心ため息をついているものと思われる。部長の指示があまりにも大雑把だからだ。


< 7 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop