貴方が手をつないでくれるなら
「あ、ごめんなさい、つい」
…つい、か。我に返ったのか慌てて顔から手を引こうとするからその手を掴まえた。
「俺も、つい、だ。だけど…日向…」
「は、い」
「俺は、真面目に、本気だ…決して軽くは無い。俺は…日向」
…言葉の意図、伝わったか…。
「…あの……いいですよ…」
「日向…」
「恐くない訳じゃないけど…こういう事、雰囲気も大事ですよね?よく解らないけど、今って、そんな感じじゃないですか?これ以上あんまり話しちゃ駄目?色々言ってると、雰囲気が台なしになってしまうもの?…しようって言って…しないものですか?…」
「…フ。…日向。…どっちでもいいよ。こういうのって、雰囲気が大事って凄く気にする人も居るし、楽観的にというか、…そうだな、別に、しようかって言ってからしたっていいんじゃないかな」
「…私…いいですよ?」
…投げ出すのか?。覚悟は出来てるって事か。
「折角の…まさに雰囲気を壊して悪いけど、ちょっと待っててくれるか?」
「は、い。私は別に…」
掴んでいた日向の手を一つに合わせてから膝の上に戻し、ベッドから下りて洗面所に行った。
鏡に顔を映す。ふぅ…何年振りかな。顎を撫でた。
シェービングクリームを手に取った。…やるか。
「…お待たせ」
「はい…あ、え、えっ?柏木さん…髭、が…」
頭を掻いた。癖だ。いや、照れ隠しだ。顎に手をやり撫でていた。
「これで、触れてもチクチクしないはずだ」
「あ…か、可愛いです。柏木さん」
「…は?…可愛い。…可愛いねぇ…」
失敗したか…。これでも俺なりにちょっと頑張ってみたんだが。
「はい。何だか若くなりました」
…。
「若くね…」
…俺をいくつだと思ってるんだ。ベッドに腰掛けた。
「…日向。そんな事言ってると一杯するぞ?」
「え゙?からかった訳ではないです。言い方が良くなくて上手く伝わってないんですね。私は別に髭があっても無くても、か…ぁ」
唇が塞がれた。
「ん……どうだ…くすぐったくないだろ…。どっちがいい?…こっちがいいか…。まず…これからだ。…痛くないやつ。…キス、一杯しようか…」
ベッドの上で座っていた私は、身体を捩るようにして頬に手を当てた柏木さんに、唇を更に奪われ続けた。沢山食まれながら囲うように腕を回された。唇が触れ、食まれる度、頭が少しずつ後ろに押されてる。クスッ。…チクッとしない…くすぐったくない。甘くて切なくて…柔らかいだけ…。
背中を腕で支えられながらゆっくり倒された。