貴方が手をつないでくれるなら


大祐…、タッチの差と言われればそうなのかも知れない。本の数時間前までは俺達はまだ何もない友達だったんだから。
…寝ようと言ったものの、眠れる訳も無い。か。そう思って横になって静かに起きていたんだ。

「あの…聞いてもいいですか?」

日向も起きてたんだな。

「いいよ、何でも」

「どうして刺されたんですか?…柏木さん、簡単に刺されたりしないだろうと思って。余程、不意を突かれない限り、有り得ないんじゃ無いかと思って。その不意打ちも、無いと思うんです」

「不意というか…あの時は、んー、俺から刺されに行ったようなものだったかな」

「え?そんな事、嘘…そんなのどうして、する必要があったんですか?」

「んー、必要は、あるにはあったんだ。だけど刺されていい訳では無かった。俺が上手く立ち回れなかったんだな。身構えるのが遅れた、と言えば格好がつくようだけど、不意を突かれた事と同じだったな…」

…。

「日向?大丈夫か?刺された様子を想像しない方がいい、もう止めよう」

「…違うんです、大丈夫です。考えていただけなんです。何故、必要があって不意を突かれたんですか?」

「日向…。朝だったから、丁度登校中の子供が見えたんだ。新入生と下級生の前後を上級生が守るようにして、列を作って元気に歩いていた。そんな子供のすぐ近くで、ナイフを所持しているだろう容疑者と揉み合いになったら…。記憶に残ってしまう。突発的に何が起きるか解らない。子供達自身も危険でもある訳だ。
だから、近づく前に確保しようとして、結果、刺されたって事だ。
ナイフが刺さったところを子供達に見せたく無くて、離れないようにがっちり抱きしめた。朝からむさい男同士の、熱烈な抱擁って事にはなったよ。それも、何してるんだって話だけど。
子供達は何事も無かったかのように学校へ、後は町田が助けてくれた、って事だ。
刺さったままの方が良かったんだけど、運が無かったのか…、仲間の刑事が容疑者を引き離したから、強く握った手がナイフから離れなくて身体から引き抜いちゃったんだな。そうなると血が出てしまうから、情けないくらい身体から力が無くなった…」

「どこですか?傷…」

「ん?駄目だ、見せないぞ。まだ傷痕はそれ程綺麗じゃない」

「シャツの上からでいいです」

「…この辺だ」

脇腹に手を持っていった。少し押すように触れていた。…興味があるのか。

「…こんなに筋肉がかっちりしているのに…。凄く痛かったですよね」

「…フ。…あぁ、とんでも無く痛かったよ。痛過ぎて熱かった。ここ…、凄く熱くなって、その後で身体が寒くなった。…見せたく無い情けない姿を、一番見られたく無い奴に晒して、挙げ句、世話になったって訳だ」

「柏木さん…」

…日向。驚いた。日向が俺の顔を両手で包んでいた。

「約束出来ないから、では無く、死なないでくださいね」

「…日向」

「勿論、町田さんもです」

あ゙。ハハ。…よく話に登場するのは仕方ないのか。相棒だからな…。

「そうだな。なるべく無茶はしないでおくよ」
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