貴方が手をつないでくれるなら
「私、知ってるよ?多分、遥さんはお兄ちゃんの事がずっと好きだって。間違いないと思う。…こっちに越して来てから家、近くなったし。
私達は、ほら、本当の兄妹じゃないじゃない?だから、遥さんは、お兄ちゃんが私とこうして二人で暮らして居る事が嫌なんだよ。だから私にちょっと素っ気ないんだよね。心配無いのにね?私とお兄ちゃんは昔から、もうずっと兄妹なのにね?」
…日、向。
「ああ、そうだよな、日向」
頭を抱えるように日向を抱きしめた。
「わっ、もう、苦し~い」
「日向だって、いつもこんな風にして平気で俺に抱き着いて来るし、俺だって、こうして抱きしめるしな」
…俺と日向では内面は違うがな。
「小さい頃は一緒に風呂だって入ったしな~」
「えー?!嘘…」
「あれ?覚えて無いのか?本当だぞ」
「いつ~?」
「んー、日向が2歳の頃だろ?ずっと入ってたのに覚えてないのか?」
「えー、覚えてない。そんな事もあったんだぁ」
顔を見合わせた。
「あ、ああ。だから、日向の裸なんて、俺は知ってるって訳だ」
「あ、もう、嫌だ、お兄ちゃん、エッチー」
「ハハ、馬~鹿。日向だって、俺の裸見てるって事だろ?日向こそスケベ~」
「わ、私は小さくて、一緒にお風呂に入った事も覚えてないもん、そんなの知らないわよ」
「あー、それは体のいい言い訳だな。覚えて無くても見てるのは事実だ」
「そうでしょうけど…」
子供同士の裸じゃない…。
「明日、遥がまた晩飯作るようだから…」
「うん、解ってる。…ねえお兄ちゃん?」
「ん?」
「遥さん、泊まって行きたかったら、私は別にいいんだよ?」
「日向…何言ってる。だから、そんなんじゃないから。誤解するな」
「いいの?」
「いいも何も…、俺はそんな気持ちも、つもりも全く無い」
「でも遥さん…」
「あっちはあっちで好きにしてるつもりだろう。俺は違う…そんな気は更々無い。昔からただの従兄弟だ」
「そうなの?」
「ああ、そうだ。これからも変わらない。ただの従兄弟だ。……なあ、日向」
「何?」
「眠れないなら昔みたいに一緒に寝るか?…」
「…お義父さんと、お母さんが死んだ時みたいに?」
「…うん。今は、それとは違うけど…最近の日向は可笑しいよ。だから心配はしてるんだ」
頭に手を置いた。
親父と義母さんが死んだ時もだけど、…日向、お前が解放されて、家に帰って来た時みたいにだ。ずっと、一緒に眠ったよな。
「お兄ちゃん…」
「何か隠してるだろ?」
覗き込まれた。
「…隠してるって言うか」
「よし、解った。一緒に寝よう。話はベッドの中で聞かせて貰おうか」
「あ、お兄ちゃん」
ベッドに倒され布団を掛けられた。
お義父さんとお母さんを思って、泣いて泣いて、眠れなかった頃のように、お兄ちゃんは私を布団の中で抱きしめた。
…放心して眠れなかったあの時のように。
結局、二人共直ぐに寝てしまって、私の話なんて何も聞かなかった。