貴方が手をつないでくれるなら
「お兄ちゃん、おはよう。お陰でよく眠れた」
「お、日向、おはよう。そうか。朝ご飯出来てるぞ?」
「え?もう?今日は私の番なのに」
「んー、何だか早く目が覚めたから、ついでに作った」
「そうなんだ。だから居なかったのね。じゃあ、お兄ちゃんの方が眠れなかったって事?」
そうなんだ、ごめんねと後ろから日向が抱き着いて来た。
「あ、ああ、そうだな。日向が寝相悪くてさ。参ったよ。殴られそうになった。昔は大人しく寝てたのにな」
「え、嘘。何それ、本当に?」
後ろから顔を覗いて来た。
「本当だ。いいから…顔洗って来い、ご飯装っておくから」
「は~い」
はぁ…日向、…嘘だよ。日向は俺の腕の中でずっと静かに寝てた。
「あ、お兄ちゃん」
「うおっ、何だ」
…驚かすなよ。
「遥さん、来るんでしょ?」
「ああ、来るだろ」
「何作ってくれるんだろうね」
「…ビーフシチュー、作るらしいぞ」
「じゃあ、バゲット買っておこうか?」
「買って来るんじゃないのか?そのくらいは一緒に持って来るんじゃないのか?」
「いいから。うっかり忘れるかも知れないし。ダブってもいいから買っておく。前みたいに言われるよりいいから」
…はぁ、そうだったな。確か、前にもパンが欲しかったのに買ってくれてないの、なんて、日向に強めに言った事があったな…。気が利かないみたいに言って。…。
「そうだな、買っておくか。明日の朝食になってもいいし」
「うん、じゃあ、私がお昼に買っておくからね」
「うん。それより、早く、顔」
「は~い」
言葉にしなくても、遥のは態度にも現れているから…。…嫉妬、みたいなモノなんだろうが。何でも無い事でも強く当たるというか。また余計な事、日向に言わなきゃいいけど。俺の居ないところで言うから解り辛いんだよな。悪い子では無いんだが。従兄弟だから余計残念な気持ちになるんだ。
「ねえお兄ちゃん」
「おわっ、何だ」
戻ってたのか、子供みたいに神出鬼没だな。
「お肉とか、ワインとか、そこら辺は用意して来るよね?」
「大丈夫だろ。そこまで用意して来ないなら、もう作らなくていいだろ」
椅子を引いて腰掛けた。
「だよね。では、有り難く…フフ、頂きま~す」
「うん、頂きます」
遥が来る度、何だか、こうしている平和を壊されそうで…。俺にその気は無いと知っているはずなのに。来ないでくれと強くも言えず。…赤の他人じゃない事の方が何だか難しいもんだな。