貴方が手をつないでくれるなら

【お見舞いには行っては駄目なんでしょうか】

…あ、まだそれどころでは無いか。

【本人に確認が取れませんので、今私からはお返事出来ませんね】

…そうよね、…迷惑って事もある。

【病院はどこなんですか?警察病院に入院されているのですか?】

救急指定病院なのかな。

【それも。私からは言えないです。堅い事を言ってすみません】

【大丈夫です。回復を祈ってますとお伝え願えますか?】

【はい、伝えておきます。有難うございます。突然驚かせて、ごめんね。では。町田】

あ、…。何だか、最後の文で、あまり重傷では無いのかなって気がして来た。あー、それにしても、怪我をしてしまうなんて…。危険な職業だとは思っていたけど。知り合いになってしまったから、こういう事、身内が怪我をしたようで凄く身近に感じてしまう。
…あ、いけない。帰らなくちゃ。



「ただいま。はぁ…」

「お帰り」

ん?どうした。何か変じゃないか?

「はい、サンドイッチ」

「ん、ああ、有難う。日向は?」

「私も買って来た」

「そうか、じゃあ交代で。日向が先に、ゆっくりでいいから」

「え?あ、うん、有難う」

やっぱり心ここにあらずって感じだな。小さなベーカリーの紙袋を持って裏に行った。



今のタイミングなら、町田さん、まだ柏木さんの携帯を持っているだろうか。

【町田さんですか?】

変なメールだけどしてみた。手を洗い珈琲を入れて腰掛け返信を待った。

ブー…。来た。

【はい。そうですよ、笑】

あぁ、町田さんだ。…よし。

【私のアドレスと番号は?伝わりましたか?】

…そう来るよな。

【確かに、この中にあると思います】

…あ、じゃあ、まだ伝える前だったのかな。

【私、町田さんにも教えていいって伝えたんです。柏木さんの携帯を見ては駄目なんですか?】

【それはしません。やり取りをしているのは、あくまで柏木ですから。今、手にしていても見ません。厳密に言えば、今のメールを表示したって解りますけどね】

ごもっともです。

【柏木の立場に立って見れば、今、俺の携帯で勝手に何してるんだって、あまりいい気はしないと思います。だけど、最初のメールに関して言えば、柏木の事を貴女に知らせたかったから。それに尽きます。すみません、仕事に戻ります。これはもう柏木の元に返します】

…仕事に戻る訳では無い。俺は今病院に居るんだ。ベッドで眠る柏木の側に居る。


はぁ…今、どうでもいい事…、そんな事を、確認の為とはいえ、聞いた自分が凄く愚かで嫌になった。柏木さんが怪我をした。町田さんは忙しい中、取り急ぎのメールをしてくれたのだろうに。
私は暢気過ぎる。職業の違い…日々の仕事に対する緊張感が違い過ぎる。
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