貴方が手をつないでくれるなら
「…日向、…日向?そろそろいいか?」
…あ、ボーッとしてた。
「あ、ごめん。だいぶ時間経ってた?」
「それはいいんだ」
時間が経った割にはあまり食べてないようだし、やっぱり何かあったのか…。帰って来てから何だか落ち着かないようだし。どう見ても明らかに様子が変だ。
「日向…」
「あ、お兄ちゃんも珈琲でいい?それとも紅茶、入れようか?」
「あ、うん、珈琲でいいよ…」
「解った。…はい。…じゃあ、交代ね。あ、忙しくなったら呼ぶからね?」
ガサガサと片付け始めた。
「ああ」
…買って来ると言って出たのに、肝心のバゲットは買わずに…。二人分のサンドイッチだけを買って帰って来た。
しかも、ミックスだって言ってたのに、玉子サンドとカツサンド。それしか無かったのかも知れないが何も言わない。余程、別に気を取られる事があったとしか思えない。…あの短時間に。何だろう。
…。
「日向〜」
「は〜い。な〜に〜」
今は客は居ないようだな。
「サンドイッチ、どう見てもミックスじゃないぞ?」
「…あ、本当だ…。そうだ…ミックス…ごめん」
「それに、バゲットはどうした?無かったのか?」
「あっ、バゲット…」
口を押さえている。…はぁ、どうやら本当に用件はすっかり抜け落ちていたようだな。
「…どうしよう、電話してみようか。お昼回ったら、もう売り切れてるかも知れない」
「別にいいよ。だいたい遥が自分で何か作るって言ってるんだから、欲しい物は自分で用意して来るのが普通なんだから。それを日向が気を遣って用意しておく必要は初めから無いんだから」
「…でも。…はぁ、もう、何しに行ったんだか解んない…。子供のおつかいの方がちゃんとしてる…」
「日向…」
「もう仕方ないね。買ってあったとしても何かしら言われてただろうから」
ペロッと舌を出した。…だったら、だ。遥の為に何をしたって変わらないなら、良かれと思って何をしたところで無駄と言う訳だ。そんなのは俺も日向も解かってはいるけど…。
「何か嫌な事言われたら言うんだぞ?」
頭に触れ、何となくリモコンを手にしてテレビをつけた。
「うん、大丈夫」