貴方が手をつないでくれるなら
店をしまっていたら、遥がやって来た。
さすがに買い物袋は手に提げていたが、小さなスーパーの物だけで、特にパンが飛び出しているといった風でもなかった。
…ロールパンでも買って来たかな。
「爽。来ちゃった、上がるね」
「…ああ」
日向の横を通り過ぎた。
「…どうも」
「いらっしゃい。今日はごちそうになりますね」
「…別に。日向ちゃんの為に作る訳じゃ無いから」
あ、はは、…。そうですね。早速言われちゃった。
「遥…そんな言い方は無いだろ」
「お邪魔しま~す」
「あ、はぁ、…全く。子供だな。日向、気にするなよ?…いつもいつも、どうしようもないな」
「大丈夫大丈夫。さあ、私達も上がろう?」
「ああ」
背中を押された。
「ねえ~圧力鍋はどこ~?赤ワインは~?」
2階から声が降って来た。
「ほらほら大変。早くしないと」
「全く、…はぁ」
お鍋を出し、料理用に開けてあったワインを取り出した。
遥さんは可愛いエプロンをしていた。
それぞれを受け取り、遥さんはお肉を漬けているようだった。玉葱、人参、じゃがいもを取り出し、玉葱を切り始めた。
私は手伝わない方がいいのよね…。遥さんが作った物をお兄ちゃんに食べて貰いたいんだから。
「お兄ちゃん…」
「ん?」
「手伝ってあげたら?」
ダイニングテーブルに腰掛けていたお兄ちゃんに耳打ちした。
「その方がいいに決まってる。私、自分の部屋に居るから、出来たら今夜は二人で食べて?」
「おい…日向。待て」
「いいから、…早く手伝って」
こんな雰囲気の中で一緒になんて食べられないと思う。今日は特にだ。来た時から刺々しい感じがするから。居ない方がいい。
「…ああ、解ったよ」
渋々立ち上がった。
じゃあね。日向は部屋に行った。あ、日向…はぁ、…仕方ないか。
「遥、何か手伝った方がいいか?」
腕を捲り手を洗った。
「え?いいの~?うん。じゃあ、人参切って?あ、じゃがいもの皮も剥いてね」
「はいはい」
「ニンニク入れていいよね?」
「ああ」
…。
「…もう。つまんなさそうに返事しないで」
「はいはい」
「…もう。あれ?日向ちゃんは?」
「…部屋だ」
「ふ~ん」
「出来たら二人で食えってさ」
「本当?へえ、やっと、気、遣ってくれたんだ」
はぁ…どんな気だと思ってる。和気藹々と食べられるはずが無いと思ってるから、日向が気を遣ったんだからな。
「二人で食べられるんだね」
「…遥…パンとか、買って来たか?それとも、白飯食うか?」
「え?当然パンでしょ。パンくらいあるでしょ?」
「あるよ、食パンならな」
「フランスパンとか無いの?」
…これだ。
「…いつも常備してる訳無いだろ?食パン切ってガーリックトーストにでもすりゃあいいだろ」
「そうね。じゃあ、それは爽がして」
「…はいはい」
さっきから、殆ど俺がしてるじゃないか…。うちはパン屋じゃないんだ。あって当たり前みたいに、フランスパンは?なんて聞く方が変だろ。だから…、晩飯作るなら、何もかも全部用意して来いって話だ。こんな調子でよく、毎回作るって言うよな…。
「何か楽しい~」
はぁ…俺は全く楽しくない。