貴方が手をつないでくれるなら
「…ご馳走様」
「はい。ねえ、次は何作ろうか」
「別に」
「別にとか、何でもいいとか、言っちゃ駄目なんだよ?」
解ってるよ…。そんなの日向に毎日言われてる事だ。
「もう。じゃあ、帰る。ねえ爽、送って?駅まででいいから、ね?早く」
「ハァ、駅までしか送らないよ」
「もう…」
「日向に言って来るからちょっと待ってろ」
「うん」
連れ出してしまえばこっちのものよね。
「じゃあ、行くか」
「うん、帰ろう」
日向に直ぐ帰るからと声を掛けた。
じゃあ、私はご飯食べてるから、ゆっくり行ってくればと言われた。
直ぐ帰るって言ってるだろ…。
鍵はきっちり掛けて行くけど、変な物音とかしても覗いて見ようとするなよと念を押した。うっかり外に出る方が危険だ。
本来の日向なら、遥が帰る時に顔を見せないなんて無いんだが、今日はいいよねと言って、見送りに来なかった。
遥の言葉にもだろうが、やはり日向は昼から可笑しい…。
「ねえ、爽。どっか寄らない?」
「はあ?馬鹿言ってないで、真っ直ぐ帰れよ。時間も時間だ」
「え、だから…だって…折角二人なんだし」
折角の意味が俺には解らない。…これ以上二人の時間は要らない。
「直ぐ帰るって言ってある。帰らなかったら心配する。遥だってそこそこの時間に帰らなかったら叔父さんが心配するだろ?最近、殺人事件ばかり起きてるし、逮捕されたからって夜ウロウロしない方がいい。物騒だろ?」
「えー、…がっかり。折角連れ出したのに…。ちょっとくらいいいじゃない」
その手には乗らない。
「ほら、駅も見えて来ただろ。帰った帰った」
シッシと追い払う素振りをして見せた。
「もう…爽…私」
俺の腕を掴み左右に振る。
「遥、離してくれるか。…解かってる。けど、俺は遥の気持ちには応えられない」
「…どうして?」
「どうしてもだ。俺は誰ともつき合わないし、結婚もしない」
「このままずっと一人で居るつもり?」
「ああ」
「…嘘よ、…そんなの嘘に決まってる」
…嘘じゃない。
「日向ちゃんと居るつもりなんでしょ?日向ちゃん、あんな感じだから…それが一人で居るって意味なんでしょ?」
「遥…」
「日向ちゃんと…ずっと一緒に居たいんでしょ?」
「親父も義母さんも居ない…俺には日向を守る責任がある」
「だから…結婚しないのよね。…兄妹だから。…結婚しなくたって一緒に居られる。その方がずっと一緒に居られるものね。もう日向ちゃんだって大人だよ?責任って言っても、子供じゃないんだし。…日向ちゃんは、あの時…本当はどんな目に遭ってるかなんて解んないじゃない…。気持ち悪い男とずっと一緒に居たんでしょ?何日も。変な事されてるかも知れないじゃない…。誰にも解らない。
何も無かったって言えば何も無かった事になるんだから…」
「止めろ遥!…想像でモノを言うのは止めてくれ…。いいか……日向は、病院でも…念の為診て貰ったんだ。……大丈夫だったんだ。…遥、…もう来ないでくれるか。いや、もう来るな。そんな目で日向を見てたなんて…そんな奴だとは思わなかったよ。もう…帰れ」
「ち、違うの、違うの…私…爽が好きだから。だから…日向ちゃんには取られたく無くて、だから…ごめん、なさい。言った事は本心じゃないの、本当よ?」
本心じゃないなら何を言ってもいいのか?違うだろ。
「…もういい。もう帰れるだろ、帰れ…」
「…爽。…ごめんなさい」
遥は改札に向かった。きつく言い過ぎたか。…はぁ、これで、うちに来る事は無いだろう。
…本心じゃ無い?…笑わせるな。思ってなきゃ言葉に出来ない事だ。そんな風に日向が思われていた。それだけでも日向にとっては、物凄く辛いじゃないか…。あぁ…うちじゃ無くて、日向が一緒じゃ無くて良かった。
その事で日向にはもう傷ついて欲しく無いんだ。