貴方が手をつないでくれるなら
「…ただいま」
「あっ、本当に早かったのね。おかえり」
あ、…。
「日向、ごめん、それ」
日向は俺達が食べた食器を洗っていた。
「ごめん、俺がするよ。先に送りに行ってしまったから、そのままだったな」
遥を早く帰したかったのもあった。
「いいのいいの。気にしないで」
「…日向?ご飯何か食べたのか?」
「う、ん。何か食欲が無くて。あ、パン食べたから、パン。心配しないで?」
「これなら食べられるか?」
背中に回していた手を出した。
「え?あ、何…たこ焼き?何かね、帰って来た時、ソースの匂いがすると思ってたの。遥さんのお土産にでも買ってたの?ついで?」
「違うよ。日向、好きだから買って来たんだ」
「ゔ~ん。食べる!お茶入れるね。食欲が俄然湧いて来た。片付けは中断。あったかい内が美味しいもん。…凄い現金よね」
「ハハ、まあいい。食べろ」
「お兄ちゃんも食べるでしょ?」
「俺は別にいいよ。日向が食べろ、日向に買って来たんだ」
「一緒に食べようよ、ね?たこ焼きが入らないくらいお腹一杯って訳でも無いでしょ?」
「まあ、な。じゃあ、一個…二個くれ」
「まあまあ。はい、座って?食べてたら食べたくなるから。このソースの匂い…誘惑に負けたちゃうから」
「フ。これで取り合いしたら日向が食べられないだろ」
「はい…、お茶。そんな事無い。半分こして食べよ?」
「まあ、適当にな。…はぁ、お茶、美味いな。何だかホッとする…」
「お兄ちゃん…歳、取ったのかな。フフ、嘘よ?日本人だもの、こんな時はDNAが真から感じてるのよ。色んな物も飲むけど、こんな時はきっとお茶が落ち着くのよ」
「日向…」
こんな時、こんな時って、日向にとってどんな時なんだ…。
「何?…ん、アッツ。中、熱かったぁ。フフ、美味し~い」
「ん、そうか、気をつけろ…あのな…、遥だけど、多分もう来ないから」
「え、何かあったの?喧嘩でもしたの?」
「喧嘩っていうか、うん、まあ、ちょっと、な」
「…そうなんだ。あ、だけど、遥さん、気まぐれだから、あっけらかんとしてまた来るかも知れないよ?」
「…うん、まあ、それも無いかな」
多分。
「え、そうなんだ…」
ずっと二人だったから。お兄ちゃん、はっきり断ったって事かな。じゃないと、あの遥さんが来なくなるなんて考えられない。
「お兄ちゃん、じゃんけんしよう?」
「なんで」
「最後の一個だから」
「そんなの、日向が食べろ」
「じゃんけん」
…。
「はい、じゃんけん、ぽん。あ゙、負けた~。はい、お兄ちゃんが食べるのよ」
楊枝に刺したたこ焼きを日向が口の前に持って来た。
「元々日向の為に買って来たもんだろ?日向が食べ、…ん、ほ」
半ば押し込まれた。
「フフ、大丈夫だった?お兄ちゃんが勝ったから、これはお兄ちゃんの物なの。じゃんけんして勝った意味が無いでしょ?
はぁ、美味しかったね、ご馳走様でした。後片付けするね。あ、ビーフシチューは美味しかった?」
「ああ、美味いも不味いも無いさ。シチューのルウで作ったんだから、それなりに作れば食べられるだろ?」
「あー、何気に居ない人の事、ディスってる…。私だって、大体市販のルウで作ってますけど?」
「あ、だけど、たまにちゃんと作ったヤツも美味いぞ?」
「ちゃんとって…美味いって…どうだか」
「本当だって。上手く出来てるぞ?不味かったら不味いって言うし」
「はい、解りました。お風呂入ろう、お風呂。溜めて来るね?」
「ん、ああ」
遥が来なくなる本当の理由なんて日向は知らなくていい。