貴方が手をつないでくれるなら
・知られたくない事

隣り合って腰を下ろしていた。

「まあ、飯、食っちまおうぜ。おにぎり何買ったんだ?お前、相変わらず買うの早いよなぁ。一緒に寄ったんだから待ってくれててもよさそうなもんなのに」

「あ?…フ、彼女じゃあるまいし。仲良さげに買ってられるかよ。俺は、いつもと同じだ。鮭のハラスと…鶏五目ご飯のな。これに決めてるからな。だから早いんだ。お前は?」

ガサガサと取り出して袋の上に乗せた。

「俺か?俺は…、これ。弁当のコーナーで迷ってたら、誰かと違って、可愛いバイトちゃんがお勧めですよ~って、レジから声を掛けてくれたんだ」

「何、何…。地域限定の焼肉弁当か。…は。まんまとやられてるな」

「ん?」

「賞味期限近いな、それ」

「あ…。まあ、今食べる分には関係無い、余裕。僅かな時間で廃棄処分になるくらいなら食った方がいいだろ。勿体無いの極みだ。それに“賞味”期限だからな。
……どうせ何食べたって同じだ…」

「ああ、まあなぁ」

ガシャガシャと容器の包装を外し、町田が焼肉弁当を食べ始めた。一口、二口と口に放り込んだ。

「…お、確かにこの肉、旨いのは旨いぞ?しかし………どうなんだ?……ふぅ」

箸を置き、お茶を流し込むように飲み一息入れた。

「ん?どうって、そっちこそ、どうなんだ?」

町田から渡されたお茶を飲み、鶏五目ご飯のおにぎりにかぶりついた。ん…やっぱ、さっき貰ったのはお茶っていっても、緑茶を飲んだら味ははっきり違うもんだな。

「相変わらず居ないな」

「俺も居る訳がない」

…。

「上手い家メシってやつは、いつになったら食えんのかね~俺らは」

「さあな。そもそも家にもあんまり居ないし。お前、ほぼ炭水化物ばっかりだな。野菜サラダくらい買って食えよ…、栄養成分はほぼ抜けてるらしいけど」

「だったら…食っても意味無いだろ。お前だって、肉の下の申し訳程度の葉っぱくらいじゃ、全然ビタミン足りて無いだろうが」

…空しい会話だ。

「…はぁ。帰って寝るか。…一人で。な?」

「ハハ。あぁ、またいつ呼ばれるか解らないしな…。俺、ちょっと寄るとこあるから、じゃあな」

「あ、おい、待てよ。お前、まさかそれ……鑑識に行くんだろ」

指を指された。

「…ああ。内緒で調べさせる。何か引っ掛かる、気になるんだ。お前もならないか?」

「…なる、な。なるっちゃあなる。だけど、…止めとけ。結果何か出たら、人の過去に無許可で触れる事になる。
…プライバシーってものがあるだろ。今からお前がしようとしている事は、まんま職権濫用だし、プライバシーの侵害だぞ…」

「…解ってるよ。じゃあ、俺、行くわ」

少し逸っていた。

「あ、おい、もう。柏木…待てったら。俺も行くから。もう少し待て。…もう終わるから。食べ終わるまでゆっくりお茶でも飲んで待ってろって」

それ、まだあるだろって指を指す。今は張り込み中じゃないんだ、ちょっと飲んだら直ぐ捨てるんだからな、と。

「…はぁ。これは言わばプライベートだろうが。俺一人でいい事だ」

「阿保、プライベートなら鑑識使っちゃ駄目だろうが。ばれたら叱られちゃうよ~」

…だから俺一人でいいって言ってるんだ。

「一緒に叱られたいのか」

「あ?そうだよ。フ、とにかく待ってろよ、一緒に行くから」

「はぁ…ああ、解ったよ」

町田が食べ終わるのを大人しく待つ事にした。大して時間は掛からない。350MLのお茶を久し振りに飲み切った。
おにぎりのフィルムを町田のコンビニ袋に片付け、カップを俺の小さい袋に入れた。


「はぁ…はぁ、…ただいま」

「ん、…お帰り。どうした、息切らして。早過ぎないか?日向。まださっき休憩に出たばっかりだろ。あー、時間、勘違いでもしたのか?」

「違うよ。でも帰って来ちゃった」

「…おい、何かあったのか?」

慌ててレジから歩み寄って来た兄に、肩を掴まれ顔を覗き込まれた。…いつまでも過保護だ。

「違う、心配しないで?何でも無いから。ちょっと驚いた事があっただけだから」

「驚いたって…、日向…何に」

「何でも無いの。大丈夫だから、ね?ちょっと奥で休憩してるから。まだ時間内だからいいでしょ、お兄ちゃん」

「あぁ…いいけど。本当に大丈夫なんだよな?」

「うん。大丈夫大丈夫」

…日向、息を切らせて帰って来るなんて。心配するだろ。
< 3 / 108 >

この作品をシェア

pagetop