貴方が手をつないでくれるなら
「今の本当に刑事か?」
「え?本当よ?」
「中々、威圧的だったな」
「威圧的とか…悪い人ではないと思う。だって、人を殺した人と向かい合ったりするのよ?自然と厳しい顔つきにもなると思う。…私も最初は恐い感じの人だとは思ったけど、でもそれが正直で…いい人だと思う」
「…そうか。どうだった?映画は面白かったか?」
「それが…悪い事しちゃった。途中から寝てたみたいで、気がついた時は終わってたの」
…ん?気を緩めたという事か。
「プ、ハハハ。日向が寝たのか?そりゃあいい。ハハハ。嫌われたな、日向。
相手の刑事が寝てしまうのは仕方ないかもしれないが。日向の方が寝てしまうなんて、最低だなぁ」
「だって…、今日、忙しかったし、出掛ける前にゆっくりお風呂にも入ったから、それでだと思う」
「まあ、終わったものは仕方ないさ。そうだ、日向、出掛けるからって、あんまりご飯食べてなかっただろ。なんか少し食べて帰るか?」
よく見てるなぁ。
「こんな時間に?でも、んー、じゃあファミレスに寄って?パンケーキ食べて帰る」
「ハハ、ほら、食べるだろ?よし、寄って帰るとするか」
「うん」
本当は映画の後で柏木さんとどこかに寄れたら良かったのだろうけど。
「日向、…何かいい香りがするな…。香水でもつけてるのか?」
「え?あぁ、これよ、多分。いつも髪は纏めてるけど、今は解いているから、髪の匂いじゃない?香水なんてつけて無いから」
少し束にして掴み、運転する兄に髪を近づけた。
「あ、ああ、本当だ。シャンプーの香りだな」
「うん」
…日向。
「そうだ…映画、何だったんだ?やっぱり恋愛物か?」
「ううん。バンバン撃ち合うアクション物。ちゃんと観てたらきっと面白かったはずなのよね…勿体無い事しちゃった」
「へえ。余計最悪だな。そんな煩いの観てて寝るなんてな、ハハハ。大物だな、日向」
あの男に、無意識に安心感でも感じたか…。
「あー、もう、ほらお店見えて来たよ」
「はいはい」
日向につき合わされて俺は別のケーキを注文させられた。どっちも日向が食べたいからだ。珈琲とカフェオレを入れて席に運んだ。
…日向、どうしても、映画に行くって言うから条件を付けた。俺は相手の事を知らない。最初だから帰りは迎えに行くからと。
あの刑事、俺の事をどう見ただろうか。まあ過保護過ぎる兄だよな。…普通は、そこまでだ。
日向はあの刑事を友達だからと言う。男が映画に誘う。友達か…。違うだろ。友達から始めよう、なら解る。ずっと友達を望んでいる訳じゃないだろう。
一口大に切ったパンケーキを刺した日向の手を掴んだ。
「一口くれ」
「いいよ?」
そのまま引き寄せて食べた。甘くないタイプの物だ。
俺の手はずっと平気なんだ。どんなに触れても、それが急でも。どんなに抱きしめても、日向はずっと俺だけは平気なんだ。