貴方が手をつないでくれるなら
「おい、雑貨屋さんだ」
「何だよ…、帰って来たと思ったらいきなり。潜伏先が解ったのか?」
「違うよ、馬鹿。容疑者の事じゃ無い。眞壁さんだよ」
「はあ?馬鹿はお前だ。眞壁さんて…お前は何してんだよ…」
「偶然だよ、偶然。仕事は何してるんですか、どこにお住まいですかなんて、尋問するみたいには聞けないだろ?」
「…当たり前だ」
「ん。だから帰り際を狙った」
トイレにでも行ってるのかと思いきや…そうか、いつもぎりぎりを狙って行っているのか。…抜け目のない奴だな。
「今から帰るなら、その方向に歩き出すだろ?だから、自然に、こっちなんですねって聞いた。そしたら、この通りの先の角の雑貨屋だって普通に話してくれたよ」
フ…自慢気に…。自然な流れだな。手馴れてる。上手いもんだ、全く。
「多分だ、多分だけど、二人でやってるんだと思う。ほら、忙しくなったから帰って来いなんて、まさにそんな感じじゃないか。雇ってる人間が他に居るなら、そんな事はないだろ?たまたまその日だけ二人なら、従業員が休んでてとか言い足しそうだし。仕事も兄貴と一緒って。なあ、どう思う?余程、兄貴が気を配ってるって、諸感じるよな。
あ、俺さ、眞壁さんにいつでも来てくださいって言われたから、今度、店、覗いて見よう、か、な?」
鬱陶しい言い方だな。別に一々…俺に言わずに行きゃあいいだろ?
「…おい、さっきからずっと黙ってるけどどうしたんだ?」
「…フン。お前は何でもサラっと熟すなって思ってな」
「凄いだろ」
「ああ、凄いよ…」
「…どうした」
「お兄さんが一番手強そうだなと思ってだな」
「告白して振られたのか?」
「な、何言ってる…。何も言ってない。例えばさ、俺じゃ無くても、眞壁さんはそもそもだけど、男とつき合う気持ちって持ってるのかな」
「諦めの気持ちは多少あるかも知れないし、もしかしたら、つき合いたいとは思っているのかも知れないぞ。
無くてもその気にさせなきゃ始まらない」
「…踏み込んでいいのか?」
「向こうにその気があれば、踏み込んで欲しいんじゃないのかな、お前に限らず?今まで誰かとつき合った事はあるのか、どうして来たかは解らないけどな。大人のつき合いとなると、自分でもどうしたらいいのか解らなくなってるかも知れないし」
「解らないって?」
「人を好きになってデートしたら、お前、まずどうする?」
「んー、…手を繋ぐってやつか」
「そうだろ?それ。好きな人には触れたいもんだろ?せっかちな奴ならキスだって直ぐしたがる。それ以上もだ。その時、触れられる事が大丈夫だろうかって、不安に思ったら?…ビクッとして強く避けてしまったら、なんて事、考えてしまったら」
「触れられて驚いたりしたら嫌われないかって思う。驚いたその説明だって…しないと解かってもらえない…説明しないでずっと拒否したら…こっちは嫌いなんだと思う」
「ああ。実際、お前は嫌われたからな。まあ、先に言ってる内容が酷すぎるんだけど」
…好きかどうかは、まだ関係ない時の話じゃないか。…フライングだ。
「もう、その流れの誤解は解けている」
「だけど、驚いた本当の原因は、簡単に話せる事ではない。打ち明け辛い事だ。ちょっと触れるだけで不安なのに、その先、出来るのかなって思うだろ…」
…。
「まさに、お前がいきなり言った言葉の行為もだよな。自分から、こんな事があったと打ち明けられたら、こっちは受け止められるし、包み込む事も出来るんだけど。みんながそう考えをするかは解からない。だから中々言えないよな。何も知らないのに拒否されて、でも、ただ大丈夫だからと言い続けられて、上手く行くだろうか。
あ、おい、あいつ、星の連れじゃないか?職質かけるぞ」
「ああ、行こう」