貴方が手をつないでくれるなら
半ば連れ去るように車に乗せた日向は、ファミレスの帰り、車が走り出しすと睡魔に負け始めたのか、カクッカクッと頷くように首が揺れ始めた。
…お腹も膨らんだしな。眠ってしまうかな。頭に触れた。
「日向?着いたぞ~。日向~?」
本格的に寝たのか?はぁ、しようがないな…。これだから、映画で眠ってしまったのも仕方なかったのかもな。
「日向?起きろ~」
はぁ。んー、おんぶして上がるか。
「日向、おんぶするからな?いいか?」
…はぁ、仕方ないか。助手席のドアを開けシートベルトを外して腕を肩に掛けさせ引きながらおんぶした。…よっこいしょ、と。バッグを持ち、しっかりと背負い直してドアを閉めた。
「……重いぞ…日向。おい、起きてるだろ?」
「………フフ、バレてたか」
「もうここで下ろすぞ?」
階段の下に居た。
「あー、折角だから部屋まで行って?」
「…全く、甘えてるなぁ。小さい日向じゃないんだ、重いんだからな?…はぁ。階段を上がらせるとは…酷い仕打ちだな。…よっ、重い…」
結局、俺も下ろそうともせず、階段を上がり始めた。
「さっきから重い重いって、レディーに失礼じゃない?」
「階段は堪えるんだよ。はぁ、後ろに落ちそうだぞ」
落としはしない。…落とすもんか。
「キャー、フフ、頑張って、お兄ちゃん、あと少しだから」
「はぁ、頑張る意味ないと思うんだけど?酔って歩けない訳でもないし、第一起きてるし。日向が自分で歩けば済む話だろ…はぁ、足、腰、…来るな…」
「まあまあ、ほら、着いたー。お詫びに開けてあげるね」
廊下を進み、部屋の前になると、日向が腕を伸ばしドアを開けた。入り口で明かりを点けた。はいはい、ご丁寧に有り難うございますと言いながらベッドに寝かすように下ろした。
「有難う、お兄ちゃん。おやすみ」
「ふぅ。ああ、はぁ、おやすみ。明かり、消そうか?いいか?」
「うん、いい、自分でするから、点けておいて」
「じゃあな」
「うん、…有難う」
「あ゙あ゙。腰、やられたかも知れない」
大袈裟に腰を屈めて見せた。
「…もう。…大丈夫?」
「ハハ、大丈夫だ。おやすみ」
「おやすみ…」
はぁ…、メイク落としシートで済まそうかな。蓋を開け、美容液にたっぷり浸ったシートを手の中で温めた。
映画館に入る時、柏木さん、私の手を取ろうとしたように思えた。多分、人が多かったからだと思う。そして繋がなかった…。
あれはきっと私が前に悲鳴をあげたから…。繋がなかった事、いい方に取れば、気を遣ってくれた。…遠慮されてしまったんだ。
もし不意に繋がれていたら私はどうだっただろう。咄嗟に手を引いていただろうか。自分でも解らない…。
やっぱり、振り払っていただろうか。…解らない。友達として…。またどこかに行こうかって誘ってくれる事はあるのかな。今日みたいにお兄ちゃんが現れるならって思ったら、もう無いのかな。
柏木さんが映画に行こうと言ってくれた事は本当に急な事だった。
初めはお兄ちゃんに何も言わずに出掛けようと思っていた。別に、出掛けるのに許可が必要な訳じゃないから。言ったら、夜だし、相手が私に失礼な事を言った刑事さんだと知って、駄目だと言うに決まっていたから。
友達と出掛けると言っても誰とだと聞かれるだろうし。
はぁ…結局、柏木さんだという事を言ったら、帰りは迎えに行くからという事で渋々許可が出た。それはそれで柏木さんに失礼な事だと思った。
喧嘩してまで出掛けないといけないのかと考えていたら、行くのは最初から諦めていただろうと思う。
お兄ちゃんの心配する気持ちは解っているつもり。今までそんな状況になる事も無かったし。それは自分でもそうして来た事。
でも、私ももう充分大人なんだ。男の人と出掛ける事、そんなに心配されなくても大丈夫なのに。