貴方が手をつないでくれるなら

…。

【今夜、人が多くて、逸れないように私の手を…繋いでくれようとしてくれましたよね】

それは間違いないと思う。

【違います、と言ったら?はいそうです、と言ったら?】

え?

【違うなら、私の自惚れです。そうだったら…、そうしてくれようと気遣ってくれた事が嬉しいです】

…人としての気配りだと思っているのか。当然、それもあって当然。それ以上に、異性としての好意からだとは思っていないのか…。

【正解です、繋ごうとしました】

あー、やっぱりそうですよね。

【次は何を観たいですか?】

ん?深く触れないつもりか。…あぁ、…友達だからか。

【自己主張はありません、どうでもいいって意味でもないですが、何でもいいです】

結局のところ、俺は映画が観たい訳では無いのだから。観たい物があるなら一人で観ればいい。その方が内容は入って来る。映画に行くのは、それをダシに会いたいからだ。

【何でもいいなら、本当は行かなくていいんじゃないですか?】

だから、俺は映画が観たい訳ではないんだ。

【行ける時に上映してる物しか選べませんからね】

ちょっときつく伝わってしまったかな。

【そうでしたね、笑。聞く事からして間違っていましたね】

笑、この一文字が無ければ感情は解らなかったな。
はぁ、もう、メールは止めよう。字面では本当の感情は伝わり難い。多分、何でもない事まで、どんな気持ちで言ってるんだって…、必要なくても探りたくなる。
まして俺は刑事だ。人の言葉の裏に何かあるかも知れないと思いがちなんだ。ま、町田程、鋭く無いし、鈍いけどな。

【今日のような時間帯で貴女から日を決めて連絡してください。では】

あ、終わっちゃう。

【解りました。何でもなくても、またメールしてもいいですか?】

【どうぞ】

俺も大概素っ気ないな…。これでは冷たい奴だって事しか伝わらない。

【おやすみなさい】

はぁ…、メールしてもいいんだ。

【おやすみなさい】

これで終わりだ…いやいや、おやすみなさいの前に、気遣う言葉を添えたら良かったんじゃないのか、…はぁ。


んー。一旦締めたモノを、またメールしたら可笑しいか…。そんな事、思って悩むくらいなら、しろ、だな。
携帯を手にした。改めて入れた。

【直ぐに読めなかったり、返信も出来ないかもしれませんが、いつでも構いませんよ】

たったこれだけの事だ。よし。あ、ぁ…何故慌てて…また。指が…。紛らわしいんだ…町田。

【おい…。寝ようとしてるところに…メールだとしても嫌がらせか。俺は直ぐ読んでお前に返してやったぞ。
心配するな、お前の努力と誠意を全面に伝えてやる。眞壁さんには今、俺から送ってやった。V。ハッハッハ】

…くそ~、また選りに選って町田に送るなんて。

ん?

【有難うございました。町田さんから送って貰い、事情は聞きましたから】

はぁ、…恥ずかしいだろ、これ…、代弁してもらってると変わらない。
こんな不始末…。はぁ。
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