貴方が手をつないでくれるなら

「お兄ちゃん、…あのね」

朝ご飯を食べていた。話し辛かった。

「なんだ?」

「…うん。…あのね、まだいつか解らないけど、また映画観に行ってくるね。…あの、この前の刑事さんと」

「ああ」

…え?それだけ?…え?いいの?

「ん?一度会った。チラッとだけど。嘘じゃないよな?その刑事さんと観るんだろ?」

「あ、うん、嘘じゃない」

「ちゃんと送って貰えよ…。あぁ、送って貰えない時は連絡入れろ。一人では絶対帰って来るな、いいな?」

「うん、解った。…お兄ちゃん、有難う」

「ん?何が?」

「何でもない。ね、お代わりは?」

「…現金なやつだな…ご飯はもういいよ」

「は〜い」

こんなに急に何も言わなくなるなんて…。お兄ちゃん、どうかしたのかな。


柏木さんにメールした。

【映画の日、終わったら送ってくれますか?柏木さんが送ってくれるなら、兄は迎えに来ないって言いました】

【今のところ確実に一緒に帰る約束は出来ない。何も無ければ一緒です。送る事は当たり前です】

仕事中かな…。張り込み、とか?

【張り込み中ですか?】

町田さんにしてみた。

【そうだよ~】

あ…やっぱり。柏木さんの文章が淡々としていたから。

【…ごめんなさい、お仕事中に】

二人に送った。

「おい、町田。お前も今、メールしてただろ。それにまた来ただろ」

「それはお前が先だろ」

…。

「眞壁さんだ。お前もなんだろ?」

「…ああ。どうせ…お前が素っ気ないメールなんかしたからだろ?不安だったんじゃないのか?張り込み中ですかって聞いて来たぞ」

「仕方ない、仕事中だ。そんなのは解ってくれてるんだ」

「おうおう。最近じゃ、メールのやり取りは頻繁なのか?」

「…煩い。もういい。容疑者の部屋の声が聞こえないだろうが…」

「馬鹿、女といちゃついてるのなんか聞きたくも無いわ。悠志~、俺らもいちゃついちゃう?」

「…こっちでお前と盛り上がったら、大事な事、聞き逃すかも知れないだろ…」

…。

「あ゙ー、もう、早く止めろよ。突っ込んで来い、馬鹿。…言った俺が恥ずかしいだろうが」

…。

「あ、もう、馬鹿、突っ込みって言ったって、ボケとツッコミのツッコミだぞ。アッチじゃないからな。静かになるな。本当に襲われるかと思うだろ」

「…解ってるって。ツッコまずにボケ続けただけだろうが。煩いとか、静かになるなとか、情緒不安定だな…」

「お前こそ、無言の変な間が恐いわ。…身の危険を感じる」

…。

「ほら、また…。あ、ちょいちょい。どうやら、奴ら出掛けるみたいだな」

「ああ。よし、つけるぞ」

「ああ、いいか、行くぞ!」

…。

「行くぞ?…おい」

…。

「おい!行、く、ぞ」

「ナハハ、はぁ、面白かった。…イクぞ」

はぁ…今度はイクぞの言葉にか。…いい加減にしてくれ。
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