貴方が手をつないでくれるなら
長いソファーの一角に二人で腰掛けた。
「柏木に連絡を入れておきます。あいつ、映画に間に合わせようと急いでると思うんで。落ち着いて来いって言っときます。ちょっと失礼」
柏木に映画は無し、食事に変更と簡単にメールした。返事は無い。まあ、伝わればいい。
「それでも、きっと慌てて来ますよ。気が気じゃないでしょうからね」
「はい?」
「俺と居る事がですよ」
「あ、…町田さんは素敵ですよね」
ん?いきなりどうしたんだ?取ってつけたみたいに。
「…あ、…これは。有難うございます。そんな言葉は簡単に言ってはいけない言葉ですよ?褒めてくれたつもりでしょうが、素敵なんて言われたら俺は都合よく取りますから」
「本当ですよ?」
ブー。…メールだ。きっと柏木だ。
「ちょっと失礼」
「大丈夫ですか?緊急なお仕事では?」
「違いますよ、ご心配なく」
【もう着く】
もうか…な~んだ、思ってたより早いじゃないか。 どういうことだって入れる間も惜しんだか。携帯をしまった。
「柏木がもう着くそうです」
「あ、柏木さんだったのですね。…はい」
眞壁さんの表情がフワッと緩んだように見えた。…。
「眞壁さん、抱きしめても?あ、柏木が来たようです」
「え?柏木さん…え?……あ」
眞壁さんがクルリと玄関の方に首を向けた。今だ。立ち上がり、座る眞壁さんの背中に、屈み込み右腕を回した。
「では、おやすみなさい。俺の任務はここまで。…終わりです」
交差した横顔の耳元で囁いた。…え、…あ、…。小さく戸惑うような眞壁さんの声が聞こえた。
ドアに近づいたタイミングで柏木が本当に来た。ぶつかりそうな勢いだ。
「お、中に居る。じゃあな」
「おお、そうか。町田、悪かったな」
「ああ、悪いな」
…ん?何だ?何が悪いな、なんだ…意味が解らん。
「眞壁さん、お待たせしました」
「あ…柏木さん」
ん?何か様子が変じゃ無いか?
「あ、町田さんは?」
「え?今、そこで。入れ違いで帰ったところで、でしょ?」
「え?あ、私、てっきりご飯は三人で行くものだと思ってました。…あ。…違いますね。任務は終わり…おやすみなさいって、言われたんだった」
なんだかな…。この流れだと今日は三人の方がいいのか?
「まだそこら辺に居ますよ?呼び戻しましょうか?」
…ん?聞こえなかったかな。…はぁ、取り敢えず架けて見るか。ふりのつもりで懐に突っ込んでいた手で携帯を取り出した。
RRRR…。
「おい」
「なんだ」
「お前も一緒に行くか?」
「馬鹿か。おうって言ったら、俺は相当鈍い奴になるだろうが。店、予約しといたから行けよ。場所、今からメールするから」
「お前、そこまでして…そもそも」
「いいから。急な予定変更じゃ、お前、対応出来ないと思ってな。善かれと思って勝手に変えたのは俺だし。そこから遠くない。人目を気にしないでいいように個室にしてある。悪いが名前は俺で言ってあるけどな」
「じゃあ、お前、行かないんだな」
「ああ。当たり前だ。頑張って~、悠志~」
「テ、テメー、なめてんのか…」
「まあまあ、長話は待たせるだろ?もういいだろ、早く行け。切るぞ」
「あ、おい…」
聞けなかったじゃないか。
お前、眞壁さんに何したんだ…。