貴方が手をつないでくれるなら

町田から店の場所のメールが来た。…くそ。段取りが良過ぎて癪にさわるが、助かった。
だけど、なんで急に変更なんかしたんだ。結果オーライだが、映画だって充分間に合ったじゃないか…。

「町田が店を予約してくれているようです。ここから歩いて行ける距離です。行きましょうか。あぁ、町田は行かないそうです」

「…あ、はい。…ごめんなさい」

ん?あぁ、三人一緒じゃないのかと言った事にか。町田と飲んでいたのだろう。眞壁さんは珈琲のカップを二つ、片付けた。


歩道は行き交う人々で、まだまだ賑やか夜だった。並んで歩いた。

「何だか王子様みたいな人ですね、町田さんて」

…。

「いつもスマートで」

…。

「あ、プリン、貰った事もあるんですよ?一緒に居るから聞いてますよね?」

…。

「あ、名前からして、ここじゃないですか?可愛らしいお洒落な外観のお店ですね。女の子が好みそうですね?
…柏木さん?」

「あ、はい。はい。すみません、入りましょうか」

いかん。機嫌が悪いとでも思わせたかもしれない。眞壁さんと居るのに町田のことを考えているなんて。…はぁ。

「はい」

ドアを開け、眞壁さんを先に入店させた。
町田の名前を告げると、いつもお世話になってるんですよと、オーナーシェフが出迎えてくれた。

あいつ、一体、いつそんな時間があるんだろう。…実際解らないよな。早寝早起きだなんて言いながら、電話に出てもメールをしていても、部屋に居るかどうかなんて解らないんだから。
大体…あいつが早寝早起きの訳が無い。寝る間も惜しんでうろうろしてるんだな。

「奥が個室です、どうぞごゆっくり」

ウエイターが来て案内してくれた。

「こちらのコースで予約を頂いておりますが、変更無しで宜しいですか?」

メニューを見せてくれた。駄目なら他の物に変えても構わない事になっていると言う。町田…どこまで、至れり尽くせりなんだ。
俺が居てくれと頼んでから、全てを段取ったって事か…。全く、隙もなければ……抜け目の無い男だ。

「…あ。眞壁さんはどうです?駄目な食材はありませんか?」

「私はこちらのメニューで大丈夫です。むしろ、このメニューがいいです」

「解りました。ではこのままでお願いします」

「畏まりました」

はぁ、畏まれたが、コースと言ってもそんなに畏まった感じでは無い。…良かった。出された料理にはフォーク、ナイフは勿論だか、箸も置かれた。好きなように食べていい。そんな店だ。それに個室だ。文字通り、人の目を気にしなくていい…。
イタリアンというところも、…なんだかな。初めての食事だし、女子好みというか。
王子様…、スマート…ね、…確かに。慣れてるし、知り尽くしている感じもする。一緒に居てこの流れだと、町田ならさぞかし気に入られるな…。今夜は、出来る町田が全面に出てるって事だ。
< 62 / 108 >

この作品をシェア

pagetop