私のメモ


レストランは、最上階15階にある。
上昇する従業員用エレベーター内でも、武田さんのお説教は止まらない。
他の従業員が乗ってようが、なんだろうがお構いなしだ。


「レストランのサービススタッフが、田中様を案内する際、念のためアレルギーの有無を伺ったところ卵アレルギーが判明し、別の料理に差し替えた、とのことだ」

「へぇ。食べる前でよかったですね」

「馬鹿野郎! お客様から事前に申告があったのにも関わらずスルーしたことも、料理の提供が遅れたことも、十分問題だ!」

「すみません……」

「食物アレルギーは命に関わる。十分に注意しろと言っただろう!」

「命って……大袈裟すぎじゃないですか」

「戯け者!! お前はお客様を殺す気か! 重度のアレルギー体質であれば、少量口にしただけでも、アナフィラキシーを起こす可能性がある!」

アナフィラキシーってなんなんだ。もうレベルが高すぎてよく分からない。

「食物アレルギーは必ず、どんな食材であっても、レストランに特記事項として伝えなければならない。つなぎや、加工食品に含まれていることもあるからだ。同じ鍋で調理するだけでも、アレルギー反応が起こる場合もあるんだ」

「そうですか。知りませんでした」

「知りませんでした だと!? 研修で学んだはずだ!!」

「すみません……」

「ふざけるな!! もっと責任感を持って仕事をしろ!!」

「はい、以後気をつけまーす」


耳を塞ぎたくなった。
武田さんは、ただでさえ声がでかい。
エレベーターという密室で、叫ばれたらたまったもんじゃない。



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