名前で呼べよ。〜幼なじみに恋をして〜【番外編】
いいよ、なんて言ってくれない。

一緒に帰ろうとも言わない。


だけどわたしが教室から出てくるのを、いつも廊下で待っていてくれる。


どんな時間でも、どんなときでも、いつも一緒に帰ってくれる。


それだけのことがどれだけ嬉しいかなんて、そうちゃんは知らないんだろう。


黙って隣を歩く。


わたしは放課後しか隣にいられない。ただの一緒に帰る人でしかない。


そうちゃんが気づかせた恋が、そうちゃんなしで育っていく。


もうずっと前から、抱えた思い出と横顔ばかりでこの気持ちは穏やかに育っている。


息苦しさと多幸感が押し寄せて、一人で胸が苦しくなる。


……この恋を、わたしはどうしてやれるだろう。


潜めたままの初恋を、どうすればいいんだろう。


いつか、いつか手放せるだろうか。


いつか、なくさなきゃ、いけないのかな。


……それはちょっと、ほんとに、ほんとに嫌だなあ。


「じゃ」

「うん、じゃあね」


夕焼けとぬるい風と、沈黙。

そこかしこから漂う夕飯の匂い。


随分前に言えなくなった、また明日。


……わたし、駄目だなあ。駄目なんだろうなあ。


そうちゃんが、好きだなあ。


今日もわたしが中に入ってから、隣の扉が閉まる音が聞こえた。


苦しくても、つらくても、報われないかもしれなくたって。


この恋は、まだ諦めたくない。


抑えた吐息が、そっと湿った。
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