名前で呼べよ。〜幼なじみに恋をして〜【番外編】
放課後、隣を並んで歩きながら、そうちゃんがブレザーのポケットを探った。


しばらくごそごそした後、大きな手のひらに二つ、同じ飴の袋がのせられる。


小さい頃からそうちゃんが好きな——つまりわたしも好きな、果物の飴。


「飴いる?」

「いる」


即答したら、ふは、と軽く噴き出された。

いや、確かにものすごく早かったけど。

かぶせる勢いだったけど。


何も笑わなくてもいいじゃないか。ひどい。


「好きなんだよ」


むくれたわたしに、破顔したまま。


「知ってる」


気心が知れたからこその軽やかさで、そうちゃんが当然のように頷いた。


……くそう。


そこで知ってると返されることの特別さなんて、そうちゃんは全然意図してなんかいないんだろう。


仲良くなければ、ちゃんと覚えていてくれなければ、知ってるって返しは出てこない。


付き合い始めてから、前にも増してそうちゃんはよく笑うようになった。


ゆっくり笑って。

肩を震わせて。

おなかを抱えて。

抑えきれないように口元を覆って。

楽しそうに。嬉しそうに。なんでもないみたいに。


知ってる、と微笑んでくれる。
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