名前で呼べよ。〜幼なじみに恋をして〜【番外編】
……くそう。


わたしばっかり好きだなんて、もう思わないけど。


やっぱりそうちゃんはずるいよ。


「……早く」


誤魔化すみたいに催促したら、「ん」と頷いたそうちゃんが手を出してくれた。


「ん」と受け取る。


わたしがそうちゃんの相槌を同じになぞるのは、短い了承を大事にしたいからだ。


うん、じゃなくて、ん。

顎は落とすみたいにすとんと下がる。


……本当は、なんにも気にすることなんてない。きっとそれほど意味はない。


でも、こんなただの相槌でさえ、わたしはいろいろを気にしている。


いつもは、そうちゃんはもっとざっくばらんな口調なのだ。


クラスメイトとか友達とかと話すときは、たまに小突いたりいたずらしたり、からかったりする。

会話のテンポが速くて、ぽんぽん次に行く。


でも、わたしにはそんな口調じゃない。


了承するとき、他の人には「おう」って言うけど、わたしには「ん」だし、大抵の場合、語尾にかな、とかだよ、とかをつけてくれる。


怖くないようにっていうか、多分、言葉が丸くなるように。


……中学時代のそうちゃんの言葉遣いは、一時期もっと荒かった。


おそらくそれの反動だろう。


幼かったわたしが、荒れた口調に驚いて肩を跳ねさせたのを、もしかしたらいまだに気にしているのかもしれなかった。
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