一之瀬さんちの家政婦君

愛情が感じられなければ叱っても無意味だ。

飛鳥の母が亡くなった後の父がまさにそうだった。

気に入らない事があると大きな声を出すのだけど、飛鳥の心には全くと言っていいほど響いてこなかったから。

しかし、優しかった頃の父を知っている飛鳥は反抗をしなかったのだ。

「飛鳥ちゃんの家族は?」

櫂人からの質問に歩く足が止まる。

急に飛鳥が止まってしまった事に気付いた櫂人は、振り返って「飛鳥ちゃん……?」と首を傾げた。

櫂人の声にハッとして、飛鳥はすぐに距離を詰める。

そして、再び横に並んで歩き出した。

「母は保育園の時に病気で亡くなりました。父は――…」

何でも無いかのように質問の答えを述べていく飛鳥だが、聞いていた櫂人はさすがに焦って「言わなくていいよ!」と遮った。
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