ミステリアスなユージーン
「安藤君が来ないなら、帰るよ。私明日は仕事だし」

私は残っていたビールをグイッとあおると仕切られた個室から出た。

とてもじゃないけど佐渡君とお酒なんて飲めない。

二人きりも……辛い。

だって、好きな相手に『身体だけの相手』だと思われてるんだよ?

自業自得だけど、やっぱりもう佐渡君には近付かない方がいい。

店を出て駅へと足を進めた先の赤信号で、私は大きく溜め息をついた。

……おかしい。

仕事は出来ない方じゃない。

むしろSDは私の天職だと思うほどにアイデアが沸き上がってくるし、クライアントからの評判もいい。

恋だって、順調だった。

課長の前に付き合ってた人とも、そりゃあ別れはしたけど結果的にはいい恋だったと言える。

課長とは……割りきった付き合いだったけど、それは納得の上だった。

……じゃあ、今は?

今の私は……?

わかってる。こんな私……そりゃ好かれないよね。

でも今はあまり考える時間がない。

今は仕事が一番大事だから。

恋はまるでダメダメだけど仕事はきっちりとやりたい。

信号機のメロディが鳴り響く中、人々につられるようにして私は歩いた。

佐渡君が追いかけてくることはなかった。
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