ミステリアスなユージーン
課長が眼を見開いて私を見つめる。

「菜月……」

その時、

「和哉さん!」

澄んだ声と同時にフローラルな香りが漂い、私は反射的に駆け寄ってきた人物に眼を向けた。

それは……両目に涙をいっぱい溜めた新田麗亜さんだった。

たちまち心臓が痛いくらい脈打ち、私は息が出来なくなるほど硬直した。

麗亜さんが私をチラリと見た後、課長を見上げた。

「和哉さん、随分探したのよ?!心配したのよ?!」

「麗亜、君とは結婚出来ない。俺は……」

その瞬間、麗亜さんが課長の頬を打った。

パァン!と乾いた音がして、課長の横顔と麗亜さんの眼からこぼれた涙が同時に見えた。

近くを通りかかった人が驚いたのが分かったけど、誰も足を止めなかった。

一気に全身が冷たくなり、私は息を飲んで麗亜さんの華奢な身体を見た。

どうしよう。この状況は一体どうしたら収まるんだろう。

私がなす術もないまま立ち尽くしていると、麗亜さんが私に向き直った。

可憐で清楚だとばかり思っていた麗亜さんが、私を厳しい顔つきで見つめる。
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