ミステリアスなユージーン
「課長!止まってっ!」

「菜月……?」

血相を変えているであろう私を見て、課長が眉を寄せた。

彼は車道との段差に気付いていない。

横断歩道のないここは車が歩行者に注意しながら徐行しているけど、後ろにひっくり返ったりしたらひとたまりもない。

「課長!後ろっ!危ないっ!」

ありったけの声で叫ぶ私の声に、課長が漸く足を止めた。

そのギリギリをバイクが猛スピードで走り抜け、課長の髪を乱した。

「な、つき……」

近寄ると、僅かに酒臭い。

……課長……なんでよ、どうして。

フラリとよろけた課長にムカつきを覚え、私は彼の腕を引っ張ると人通りを避けるために歩道の端へ連れていった。

「何やってんのよ課長っ!しっかりしてよっ」

そんな私を見下ろして、課長が苦しげに眉を寄せた。

「菜月……俺は間違ってた。お前と別れるべきじゃなかった。こんなに愛してるなんて……気付いてなかったんだ」

……そんなの……そんなのもう遅い。

私達は縁がなかったのだ。もうどうしようもないのだ。

「課長、私達はお互いに運命の相手じゃなかった。課長は……これから新田麗亜さんと幸せになるべきです」
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