ミステリアスなユージーン
そんな彼女が失恋するのを見てしまった時、不謹慎だがあまり同情はしなかった。

可哀想だという気持ちよりは、これをきっかけに彼女が不毛な恋愛から自由になれるのだからよかったと思ったのだ。

けれど、人の感情は一種類じゃない。

課長の婚約者を目の当たりにし、酷く傷ついていたのに俺には必死でそれを隠そうとする態度。

先のない関係で最初から割りきっていたと言いつつ、彼女の瞳は苦しげに瞬いていた。

けれど、彼女は俺に弱さを見せようとしない。

なのに俺が邪魔しなければ、きっと後輩の安藤には有りのままの自分を見せたに違いない。

何故なら安藤は俺とは真逆で、岩本菜月に安心感を与えるタイプだからだ。

……あの時芽生えた強烈な嫉妬心を、俺は一生忘れないと思う。

この嫉妬心を感じた瞬間、俺は自分が彼女に惹かれているのを自覚した。

なんて事だ。まるでタイプじゃない女に惚れるなんて。

でも事実だ。このまま彼女を連れ去りたい。誰にも渡したくない。

勝ち気だと思えばフワフワと笑い、心許なく瞳を瞬かせては必死で自分を奮い立たそうとする岩本菜月。

こんなにも可愛い女を男がほっておく訳がないと思った。

さらわなきゃ、彼女は手に入らない。

あの時の俺は必死だった。

何とかして彼女を独り占めしたかった。

狡くても騙してでも。
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